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とんとんとんとんとんとんとんとん。
とんとんとんとんとんとんとんとん。
とんとんとんとんとんとんとんとん。
とんとんとんとんとんとんとんとん。
深夜の3時にも関わらず、入り口をノックする硬い音が、暗い夜空に響く。かじかんで真っ赤になった手を気にもしないで、美しい金髪を揺らした少女は、真っ白なレースがふんだんに使われた、モスグリーンの豪奢なロリータドレスに身を包んで、丁寧にリップの塗られたつややかな唇をすいと微笑みの形に歪めた。
「ねえあなた、大好きなあなた。あなたが私と話さなくなって、もう一億五千二百四十二万百一秒たつの。そろそろあなたの声が聞きたいわ」
「ねえあなた、大好きなあなた。あなたの声が聞けなくなって、もう一億五千五百四十三万二秒たつの。そろそろあなたの声が聞きたいわ」
「ねえあなた、大好きなあなた。何度もノックしているのに、無視するなんてひどいじゃない。わたしはただあなたといっしょにいたいだけなの」
「ねえあなた、愛しいあなた。声が聞きたいわ。料理だって練習したの、あの女はだれ?あなたはわたしにはもう会えないだなんて嘘をつくの」
「ねえあなた、恋しいあなた。顔が見たいの、触れたいの、あたたかいあなたにふれたいの、ドアを開けて」
「ねえあなた、」
「…………どうしてわたしもつれていってくれなかったの?」
ポツリと呟く、美しい金髪の少女は、彼の好きだった白いカーネーションをぐしゃりと握りつぶす。
深夜3時。白いおもてが涙に濡れる。
ドレスに隠れた少女の背には今もひりつくケロイド。あの火事の中、少女を救い出して死んだ恋人は、暮石の下で何も語らない。
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