図書館に棲む落ちこぼれの神様

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 京都の夏は暑いとよく聞くけど、本当に暑い。それもまだ5月なのに。  そう思うのは、5月の日差しを恨めしそうに見上げた奥山愛佳だ。愛知県出身の彼女は、どうせどこも暑いし、名古屋だって暑いわよと思っていたが、この蒸し暑さには辟易していた。暑さの性質が違うことを、誰もちゃんと説明してくれなかった。  今年から京都の上京区にある私立大学、同盟館大学に進学した愛佳は、一人暮らしの真っ最中。そろそろエアコンを使わないと拙いのかな、そうなると電気代はと、色々な心配が押し寄せてくる。  が、それにしても暑い。こうなったら、いつも通りに図書館のお世話になろう。そう思って、足早に図書館を目指す。図書館は京都御所側の端っこにある。今いる場所から少し歩くが、図書館の魅力を前に、そのくらいの労力は惜しまない。  というのも、文学部のそれも史学科に通う彼女は、当然ながらこの図書館がお気に入りだ。蔵書数は一万点を超え、中は清潔で涼しくて快適。自習スペースも充実している。至れり尽くせりの場所なのだ。  毎日のようにここに通い、本に囲まれてうっとりしている。それが愛佳の日常だった。 「ふう」  入り口のゲートに学生証を翳し、無事に入館。入った途端にエアコンの心地いい涼しい風に迎えられ、ほっと一息吐く。  
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