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しかし、チャンスは意外な形でやって来た。あまりに熱心に見つめていたせいか、静嵐が顔を上げたのだ。そしてこっちを見た。
「あっ」
正面からちゃんと見た静嵐の顔は、イケメンなのは変わらないが、不思議な感じがした。髪と同じく薄い茶色の瞳が、じっと愛佳を捉える。その目を見ていると、引き込まれそうだった。
おかげで、しばらく見つめ合ってしまった。が、静嵐が先に視線を外し、また本を読み始めてしまった。あれは――会話を求めているようには見えない。
「やっぱり寺本先生のお節介なのか」
愛佳は声を掛ける千載一遇のチャンスを、こうして逃してしまった。仕方なく片付けを始める。すると、再び静嵐がこちらを見た。お、やっぱり会話したいのかなと、愛佳は期待する。が、音が気になっただけらしい。
「もう」
これじゃあ、私がどうしても会話したいみたいじゃない。愛佳はそれに気づき、恥ずかしくなって急いで図書館を出ていた。
「ふう」
図書館を出ると、昼間よりは涼しい風が吹いていてほっとしてしまう。出てすぐのところにあるベンチにカバンを置き、一度伸びをした。
静嵐のことが気になるが、当分の間は近くの席に座らない方がいいかもしれない。今日の自分の行動は明らかに不自然だった。
「ああ、もう」
とても快適な空間が、僅かに居づらい空間になってしまう。それもこれも寺本のせいだ。なんとなく気になる相手が、完全に気になる相手になっている。もちろん、恋愛感情とは別にだ。
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