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「ま、向こうは迷惑かもしれないけど」
そんなことを思いつつ、本を開いていた。その気になる青年が自分をちらっと見たことにさえ、気づかずに。
そのまま、同じような時間が1週間ほど過ぎた頃。
「あっ」
かの青年が本を探しているところを目撃した。いつもは本を読んでいるところしか見ていなかったから、本を選んでいるところを見るのは初めてだ。
「ううん。何学部?」
せめてそれくらいは知れないだろうか。そう思って青年の背中を見つめてしまう。向かったのは、経済学系の本が置いてある本棚だ。
「え?似合わないなあ。それに昨日は、毒物に関しての本を読んでなかったっけ」
たまたま、普段は見えない書名が昨日は見えたのだ。これは欠かさずに青年を観察していた成果だった。だから理系なのかなと思っていたのだが。
「解らないな。ま、何でも読むタイプなのかも」
愛佳には無理だが、そういうタイプの人もいる。どういうジャンルでも掛かってこいというタイプ。
「ああ、それなら羨ましいかも。私って理系要素出てくると眠くなるのよね」
とか、勝手なことを思うのは愛佳の日課になっていた。これはもう、片想いに近い状態だが、愛佳は無自覚にやっている。
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