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そして気になると思いつつも、しっかり自分の本を選ぶのに余念がないのだから仕方がない。なかなか二人の距離が縮まらないわけだ。それに、相手の青年がやきもきしているかも、なんて想像はしない。期待しないのだ。まだ19歳だというのに、現実の恋への興味があまりにない。
「今日は石田三成の本を探そう。やっぱり軍師ってかっこいいのよねえ」
さらに言えば、残念なくらいに今、戦国武将に夢中だった。そういう本は、近年のブームもあって非常に多い。読んでも読んでも別の本が見つかる。まあ、有名な人もおおいわけで、その分、読む本も膨大になると言えた。
「さて」
こうして、進展しない二人の関係は、青年が何でも読むタイプに情報が付加された程度だった。
「やあ、奥山君」
しかし、そのまま終わるわけない。相手の青年も、あいついっつも図書館にいるなと思っているのは当然なのだ。が、声を掛けて来たのは青年ではない。
「あ、寺本教授。こんにちは」
図書館前、声を掛けて来たは愛佳が憧れる教授の寺本弘樹だった。四十五歳で新進気鋭の歴史研究者。これほど憧れる人はいないと、愛佳はずっと思っていた。そんな人から声を掛けられれば、愛佳だって舞い上がる。が。舞い上がった気持ちはすぐに萎むことになった。
「よく図書館を利用しているそうだね。知り合いから聞いたんだ」
「へ、はあ」
いきなり知り合いから聞いた話を持ち出されて、愛佳は反応に困る。それに、講義は取っているものの、寺本と親しく話したことはない。
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