図書館に棲む落ちこぼれの神様

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 しかも、その静嵐はイケメンでちょっと浮世離れした感じの、声の掛けにくいタイプだ。図書館ではなく教室やキャンパス内を普通に歩いていれば、女子にきゃあきゃあ言われるタイプだ。そんな相手に、親しく呼びかけろと。しかも下の名前で。 「いやいや、寺本先生。ハードル高すぎるでしょ」  せめて名字と思いながらも、こそっといつもいる辺りを覗いてみる。やはり、静嵐青年は今日も窓辺の閲覧場所で本を読んでいる。今日は何を読んでいるのか。読んでいる本をダシに声を掛けてみようか。そう思うが 「めちゃくちゃ緊張するじゃん」  声を掛けるって、難しい。それもしんと静かな図書館でだ。無理無理と、愛佳は溜め息を吐く。  そりゃあ気になるし、向こうも気にしてくれているらしいし、どうやら友達になりたいだけみたいだしと、声を掛けてもいいかなとは思う。思うけど、だ。 「と、取り敢えず本を探してからにしよう」  問題を棚上げし、愛佳はいつものように歴史関係の本が並ぶ棚に向かった。ともかく、気持ちを落ち着ける必要がある。まだ声を掛けてすらいないのに、心臓がばくばくと音を立てていた。 「はあ。静嵐か」  意外な形で青年の名前を知ることになり、愛佳はつい考えてしまう。しかも憧れの寺本から話し掛けられ、持ち掛けられた話だ。 「ん?ということは、寺本先生の知り合いってことよね。それも親しい。親子ってはずはなさそうだから、親戚とか?」  顔のタイプが違うから、親子ではなさそうだ。しかし、心配してお節介を焼いたのは確実。静嵐のことを奥手だと評価していたし。
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