問題が山積みになると泣きたくなるよネ!

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問題が山積みになると泣きたくなるよネ!

    「ここからはルアンがご案内します。くれぐれも指示に従って閲覧して下さい」  そう言って、青髪のイケメン……えーと、ティールだっけ。ティールが玄関へと戻っていく。どうやらここは警備してる人が二人しかいないようだ。  どう考えてもセキュリティ甘すぎだと思うが、こんな辺鄙(へんぴ)な所にある遺跡だと、このレベルでも大丈夫なんだろうか。禁書とかあるのにそれでいいのか。 「あの……他の警備兵とかは……」 「私達二人だけですね。まあ……第二層はともかく、第三層からは私達が警備する必要もない場所なので」 「禁書とかあるのに、ですか?」 「禁書があるから、ですよ」  うーむ言っている意味が良く解らないが、とにかく不穏な事だけは理解した。  要するに禁書自体が危ない物で、侵入者なんか目じゃないってことなのね。  と言うか禁書ってそんなに危ない物なんだろうか。  警備が二人しか常駐してないのも、もしかしてその禁書自身が侵入者に対しての防衛策とか取って動いてるからだったりして。  動く本とかナニソレ怖い。  ……ふ、深く考えないようにしよう。  とにかく、まずは第一層の本から調べて行こうではないか。  俺達は石造りの扉に近付き、扉を開こうと(あお)ぎ見た。 「…………やっぱりどっかで見た事有るんだよな……」  この扉に刻まれている紋様、気のせいかもしれないがどうも見覚えがある。  なんかこう……細かくて入り組んでて……。 「あっ、そっか……籠目(かごめ)模様なのかこれ」 「カゴメ模様?」  きょとんとして俺を覗き込んでくるブラックに説明してやる。 「えーっとな、木とか(わら)とかを籠にして編んだ時に、こういう模様が出来るだろ? これが籠目っていう模様なんだ」 「カゴ……ああ、確かに……! ツカサ君そんなの良く知ってるね」 「俺の婆ちゃんが持ってた小物に、よくこの模様が使われてたんだ。こういう模様は魔除けになるんだって言ってた。でも、この世界では見た事なかったなぁ……」 「確かに、僕も知らなかったよこんな模様」  籠を編んだ時には必ず見えてくる模様だけど、それを石壁の装飾にしてる遺跡ってのはそうは無いと思う。だってこんなの、アラビアンな模様とかと比べたら地味だもんな。その割に石に彫るのは大変だし……しかし、彫ってるってことはなんか意味が有るんだよな。なんかの魔除け? 「クグルギ様、それは古代紋(・・・)と言う古代遺跡のみで見られる紋様です。カゴメ……と(おっしゃ)いましたが、そのような名前が付いていたんですか」  俺達の後ろに控えていたルアンが、驚いたような声音で会話に入ってくる。  そういえばこの遺跡は俺達よりもルアンの方が詳しいよな。  古代紋とか言ってたし、何か知ってるのかも。 「あの……古代紋って、他の遺跡にもあるんスか?」 「はい。私達が管理している遺跡……少なくとも、我々の一族が生まれた【第二の開闢(かいびゃく)】以前のものと思われる遺跡には全て、このように重要な場の扉には古代紋が刻まれておりました。……まあ、空白の国は(ほとん)どが手つかずなので、もしかしたら別の紋様も有るのかもしれませんが……」 「へー……って事は、今の所めっちゃ古い遺跡だけがこの模様なんだ……」  教会風の建物のくせして和風だな。いや、この世界で和も洋もないけどさ。  でも本当に不思議だなと思いつつ、俺達は石の扉を抜けて部屋に入った。  今は扉の模様にばかりかまけてる訳には行かない。なにせ、俺達はここの本を総浚(そうざら)いして目的の本を見つけなきゃ行けないんだから。  そう思って、足を踏み入れたのだが……。 「……なに、これ」 「…………うわぁ……」  目の前に広がるのは、王侯貴族が舞踏会でも開けそうなほどの広さの大ホール。第一層は窓がないと言うのに、天井が高く作られていて、不思議と明るかった。  そのホールには、滑らかな表面の石で造られた本棚がずらりと並べられている。  トリファトの図書館も凄いと思ったが、ここはあの広さの比じゃない。  東京ドーム○個分レベルの広さ過ぎて、思わず唖然(あぜん)としてしまった。 「あの……ルアンさん」 「なんでしょう」 「これ……全部……本デスカ」 「ええ。過去から現在に至るまでの、ありとあらゆる重要とみられる本を収蔵しております。第三層まではこんな感じですね」  こんな感じって、この遺跡どんだけ本あるんだよぉおおお国会図書館かココは!  俺だってそんなインテリジェンスな所にゃ行ったことねーけど、テレビで見た事有るから知ってるよ! 小山作れるレベルで本あるんだよねあそこ!  そのレベルの場所から目的の事柄が載ってる書物だけを探せって、どう考えても死亡遊戯すぎるでしょ冗談じゃないですよシアンさん!!! 「……これ、全部区分けされてるのかい?」  はらはらと泣く俺に構わず、ブラックが独り言のようにぼそりと呟く。  その言葉にルアンは分かり易く肩を震わせたが、ぎこちない声で答えた。 「え、ええ……一応区分けはしていますが、全てヴォールの方々の指示ですので、私達は詳しい内容は知りません。なので、目的の書物があるかどうかは実際お二方に閲覧して頂く他ありませんが……」 「部外者が目的の本以外を読みまくっても問題ないんですか?」 「裁定員からの許可が出ている人でしたら、警戒する必要はありませんので……」  確かにそりゃそうだ。  この遺跡は一部の人々にしか知られていないんだから、書面を持って来る奴なら別に警戒する必要もないよな。……まあ、ブラックは警戒されたけど。  ブラックもその事が引っ掛かったのか、ぶすっと顔を歪めていたが、軽く背中を叩いて(なだ)めてやると、意図が分かったのか少しだけ顔が(やわ)らいだ。  本当に簡単なやっちゃなとは思うが、背中を叩くだけでこちらの意図が理解されてしまうと言うのも、何だか妙な気分になる。  ツーカーの仲っていうのは気持ちの良いもんだけど……相手が相手だからなぁ。  色々と複雑な思いを抱きつつも、俺達はやってみなきゃ始まらないと言う事で、お目当ての項目が有る本を見つけるべく探索を始めた。  あまりにも広大な図書館だが、俺達が目星を付けたジャンルはそう多くはない。  俺の力は、未だにどういう存在かはわからない。だが、曜術や伝承などを中心に調べて行けば、いずれはヒントくらいには辿(たど)り着くだろう。  そう思って膨大な数の本を二人で調べ始めたのだが……見通しが甘かった。 「な……なんでこんなに探しにくいんだ……」  タイトルを見て、目次をさらっと確認するだけなのに滅茶苦茶時間がかかる。  っていうかそもそも目次すらない本が多い。  そういえば婆ちゃんが持っていた古い本も、何故か目次がない本とか有ったけど……まさかこの世界の本は目次が有る方が珍しいのだろうか。  そう思うほどに、年数がわりと経過してるっぽい本は目次のもの字すらない。  酷い時は章のタイトルすらない物も有って、流し読みするにも大変だった。  しかもこの世界の本は、俺の世界の文字じゃない。今まで慣れてすんなり読めるようになってたけど、日本語で構成されてない横文字の本なんですよ。  だから、脳内に入れ込むのも段々苦痛になってくる。  タイトルも「○○《人の名前》の研究」とか「曜術研究」なんていう内容が不明なぼんやりしたのばっかりで、最早内容を調べるのも苦痛な有様だった。  日本人に横文字ばっかりの本はきついですって……。  昼前に辿り着いて、そこそこ時間も掛からずに図書室へ案内されたと言うのに、第一層を調べるだけでもう夕方近くになっていた。  こんなペースじゃ、第五層まで行くにはまだだいぶんかかるぞ……。  幸い、この遺跡は夜には壁が淡く発光するらしく、明かりの心配はいらなかったが問題はそこじゃない。速読なブラックはともかく、俺の担当の棚は半分くらいしか進んでないのだ。もしこの広さの図書室が上に連なっているのなら、単純計算で俺達は一週間近くこの遺跡に居なきゃならんことになる。  レドの件も有るし、三日程度姿を(くら)ませる事が出来れば……とは思っていたが、一週間も滞在するなんて考えても居なかったぞ。  遺跡の内部にはルアンたちが使っている泊まれる区域があるらしいが、ここまで長期滞在するとなると、逆にレド達と鉢合わせしないか不安になってくる。  どこかで誰かが俺達の行き先を気にしていたとしたら、レドはここに来るかもしれない。彼は凄い執念でブラックを追っている。きっと、今頃はトリファトで情報を集めているだろうし……もしここに滞在しているのがバレたらどうなるか……。  うぅうう……調べたい情報が見つかる前にレドに追いつかれたら(しま)いだぞ。 「あぁああ……どうしようぅうう……」  頭を抱えて(うめ)いても、時間は過ぎる訳で。  そんな無駄な事を考えている間にすっかり夜になってしまい、俺の気力はゼロになってしまった。本当は徹夜をしてでも調べた方が良いんだが、疲れたままで調査すると見落としが出て来る。焦る気持ちに流されてはいけない。一旦作業を中止して、俺達は再びルアンに連れられて部屋を出た。  今日は色々疲れたし、もう明日頑張ろう。  扉を施錠して廊下で待っていたティールと共に、俺達は廊下の途中にある隠し扉から住居区域へと案内して貰い、簡易的な夕食を取って寝室へと向かった。  この遺跡の住居区域は、人がすれ違える程度の廊下の左右にそれぞれ十室程度の部屋が有り、それぞれが台所だったり寝室だったりと役割が違っている。どうやら昔から詰所(つめしょ)のような使い方をされていたようで、部屋は質素で狭い感じだった。  兵士達が少し改造しているのか、幾つかある部屋の一部は武器庫や食料庫になっていたが、ほとんどは扉の無いビジネスホテルって感じで、扉がない事以外はそれほど不便な感じはしない。ベッドも質素な宿屋並にはふかふかみたいだし。  俺は割り当てて貰った客間に入ると、どっと疲れてベッドに倒れ込んだ。 「はぁああ……も、もうつかれた……」  他の部屋には兵士達やブラックがいるので大声では言えないが、本当に疲れた。  ブラックに気を使って、兵士達に愛想良くして、その上で文字の洪水を何時間も見続けて……。こんなに気疲れしたのは久しぶりかも知れない。  溜息を吐くぐらいは許されるだろうと思い、俺は盛大に息を吐いた。 「うぅ……これが何日も続くのか……」  本を調べるのは使命みたいな物だからもう仕方ないが、ブラックと兵士達の件についてはもう少しどうにかならないものだろうか。  せめて、兵士達がブラックに対して偏見を持たず優しくしてくれないものか。  根性がひん曲がった相手でも、仕事をきっちりこなすような奴らなんだから、ちゃんと話合えば解ってくれるような気もするんだけど……そうなるまでお気遣いの紳士役を続けるのはどうにも気が進まない。  いつも思うんだが、俺さ、十七歳ですよ。高校二年生ですよ。  何が悲しゅうて大人達三人の仲を取り持たなきゃいけないんですかね。  こういうのって普通、俺が心配しなくても大人同士で解決する事だろ……? 「ちくしょー……もう、頭パンクしそうぅ……」  表面化していないけど、問題は山積みだ。  ブラックと兵士達の事や、本の事。そして……レドの事。  自分自身の問題にすら悩んでいるのに、解決しなきゃいけない問題が多すぎる。  ああ、神様、俺何かしましたっけ……。  なんで異世界でこんな苦労しなきゃいけないんですか。  チート持ちじゃないからですか。いやある意味俺はチート持ちなのか。ちっとも嬉しくないチートだけどねこれ! 災厄の力って!! 「……マジで、俺……なんでこんな事になってるんだろう……」  普通、チート持ちの主人公って無敵でイージーモードですよね……?  あ、やばい、泣きたくなってきた。  ネットで散々楽しんでいた小説を思い出すと自分の人生を(はかな)みたくなって、頭を抱えながら俺は眠れぬ夜を過ごすのだった。 →    
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