赤髪の美女は改造武器がお好き

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赤髪の美女は改造武器がお好き

    「あ……あの……」 「ん? なんだいボウヤ」 「貴方が……ダンダルさん?」  恐る恐る長身の美女にそう言うと、彼女は綺麗な金の目を笑ませた。 「ボウヤ、見る目が有るね、他のボンクラ冒険者とは大違いだ! そう、アタシは三代目ダンダル・ヒューウェイ・グローゼル……ま、本名は違うんだけど正真正銘のダンダルさ。と言っても二代目がまだ存命中だから、アタシの方はグローゼルって呼んでくれ」  赤髪美女と言ったら勝気で男勝り。そして巨乳で姉御肌。  基本、基本ですね!! 最高です!!  ここのところ萌え属性と遠く離れた生活を送ってたから超絶嬉しいです!  やっぱガテン系美女もいいですよね。その腹筋に顔を埋めて暮らしたい。  一気に脳内で妄想が膨れ上がってしまうが、ぐっと(こら)えて俺は相手を見上げた。 「ぐ、グローゼルさん、実は折り入ってお頼みしたい事が……」 「うん? なんだい?」  美女からなら上から目線でも構わない! 巨女属性もいいですよね!!  思わず鼻息が荒くなりかけるが、ここで興奮したら多分グローゼルさんのビンタを喰らう。いや、それはそれでご褒美だけども、男たるもの紳士であらねば。  ドキドキしながらブラックの剣の事を言うと、彼女は両眉をぐっと上にあげた。 「アダマン鋼の剣が欠けたァ!? アンタ、どんなバケモノと戦ったんだ!」  驚いた事を隠しもせずにブラックを見るグローゼルさんに、ブラックは困り顔で無精髭の頬を掻きながら目を逸らす。 「ええと……物凄く硬い岩石のモンスターとちょっと……」 「岩ごときで……ランク8の奴とでも戦ったのか? ちょっとその剣見せてみな」  急かされて、(さや)ごと剣を渡すブラック。グローゼルさんは慣れた手つきで鞘から剣を取り出すと、欠けた部分をじっと見つめた。 「…………はーん。なるほどなぁ……こりゃ確かに凄いわ……」 「治せますか?」 「ムリだね。ここらじゃ一番のアタシの腕でも、この欠け方はどうにもならねぇ。この欠け方は、使えば使うほど内部でヒビが広がって、いつかはバラバラに砕けるよ。アダマン鋼は強い金属だけど、その分一度(きず)が入ったら(もろ)いからね。例え()いだとしても、内部に入ったヒビまではどうしようもねぇよ」  真剣な目でじっと剣を見るグローゼルさんの顔は、職人の顔だ。  やはり彼女は凄い技術を持つ鍛冶師なのだと確信が湧いたが、そんな人の口から「修復不可能」と言われてしまうと絶望も倍以上に思えてきた。  十万ケルブが一瞬で粉々かよ……。 「じゃあ、新しく作るか買うかしかないんスね……」 「そうだね。コイツは一度“負けた”金属だ。溶かして他の武器に直したとしても、耐久度も低くなるし使いようによってはすぐに壊れちまう。辛いだろうが、覚悟を決めて新しい武器を買いな」 「そうですか。じゃあ、ちょっと見てみます」  グローゼルさんの言葉に、ブラックは後腐れない感じで軽く言い放ち、早速そこらへんに散らばっている剣を()めつ(すが)めつし始める。  そんな姿をグローゼルさんは唖然(あぜん)とした顔で見つめていたが、俺に近寄ってくると内緒話のように耳打ちしてきた。 「おい、あのオッサン……随分と淡泊だな」 「なんていうか……武器にあんまり愛着とか湧かない人らしくて……」 「かぁーっ、勿体ねぇなあ! あんなに金の曜気(まと)ってやがんのに……」 「え、解るんですか?」  俺の場合、周囲に曜気が漂ってるだとか術を発動する時とかじゃないと視えないんだけど、グローゼルさんにはしっかりとブラックの資質が見えているらしい。 「ああ、この店にあるほとんどの武器はアタシが打ったモンだからね。金の曜気の入り方も解ってるし、何よりアタシは一流の鍛冶師だ。だから、あの男が近付くと武器が曜気を発し始めるのが見えるんだよ。どんなに微弱でもね」 「へぇ……」 「……普通は意識しなきゃ金属の中の曜気なんて引き出せねぇんだけど、アイツは生来の天才なんだろうな。無意識に曜気を取り入れて循環してやがる。まったく……冒険者してんのが勿体ねーよ」  ……普段は意識してなかったけど、ブラックってやっぱ相当レベル高いんだな。  この世界にレベル表示できる術とか有れば目に見えて実感できたんだろうけど、普段一緒に居ると全然凄さとか感じないからなあ……このオッサン……。  っていうか普通スゲーって言われるの俺じゃね。俺一応チート持ちだよね。  良く考えたら俺ってば褒められてるシーンって大概美女とかいなくないか。  ぐうううしょっちゅう美女に褒められる中年が憎らしいぃいい。 「ところでボウヤ……」 「あ、ツカサです」 「ツカサか。ツカサは付添(つきそ)いかい?」  あ。そうだ。俺もオススメの武器を教えて貰おうと思ってたんだった。  ブラックが選んでいる内にどうにかして貰おうと思い、俺はグローゼルさんに今現在使っている武器と、運動音痴の後衛野郎な俺でも扱えるような武器はないかと相談してみた。もちろん、俺が曜術師であることを話した上で。  すると、グローゼルさんは迷う事も無く一つの武器を提案してくれた。 「じゃあ、クロスボウなんかが良いんじゃないか?」 「クロスボウってーと……携帯用の方ですか」 「そうそう。えーっと、コレだよコレ」  そう言いながら武器の山から取り出してくれたのは、小型のクロスボウだ。 「クロスボウは、初心者向けの武器だよ。弓の引き方に気を取られなくて済むし、なによりある程度打てる距離が決まってるから、照準鏡も取り付けられる。ただ、金属部分の手入れが大変だし……距離が延びる事も殺傷能力が高くなる事も無いから、改造しないと能力は上がらないけどね」 「なるほど……俺、今は小型の弓を使ってるんですけど……それからすればクロスボウの方が良いんですかね」 「暗殺稼業でもなけりゃ充分だと思うよ。アンタは曜術師だし、要は相手の動きを留めたり、いざって時の武器にしたいんだろ? なら、クロスボウの方がいい」  武器の事を語るとキラキラと金色の目を輝かせだすグローゼルさん。  いいなあ、美女が好きな物を語る時のこの表情。値千金ですなあ!  しかし、やけにクロスボウを推すけどなんでだろ。 「あの、もしかしてオススメのクロスボウとか有るんですか?」 「よっくぞ聞いてくれました! 実はアタシさあ、錬成よりも改造の方が好きで、ほら、よくこんな風な武器作ってて……それでこの前ちょうど連射式のクロスボウを作ってたんだよ! だからボウヤに試し打ちして貰いたくってさー!」  とか言いながら、グローゼルさんはすぐに奥に引っ込んで、何やら沢山の武器をガシャガシャと持ってくる。ぴっかぴかの笑顔で引っ張って来たのは、弓矢を設置する場所に球体が取り付けられている小型のクロスボウだった。 「この六連射式クロスボウはな、ここの球体部分に弓矢を六つ装填(そうてん)する事が出来るんだ。そんでな、矢を発射すると反動で回転するように出来ていて……」  あつい、説明があついっす姐さん。  でもごめんなさい半分以上マニアック過ぎて聞き取れません!!  要するに、拳銃みたいな仕組みってことかな?  って事は装填に時間がかかるクロスボウの欠点を排除した凄い発明だけど……。 「お、重いっすグローゼルさん……」 「……だよなあ。携帯用クロスボウは、軽量で持ち運び易いって事が第一条件なんだけど……装填する部分と、軽量化が難しい部分の重さが合わさって、余計に重くなってしまってるんだ」  そりゃ軽量どころの話じゃないっすね。  金属部分が多くなってしまうのが重さの原因なんだろうか。初心者用とは言え、ある程度腕力が無きゃ扱えないってんなら、そりゃちょっとレベル高めだよなあ。 「うーん……俺的には曜術の力を借りて矢を射出するとか、術で作った物質が装填出来れば嬉しいんスけどね……」  例えば、横に弓の引きを調節できるレバーが有ったり、装填部分に属性を籠めて曜術を射出するとか、そういう魔法銃みたいな事が出来れば嬉しいんだが。  なんて言う様な事をボソリと呟くと。 「ボウヤ……いやツカサ、それだよソレ!! それイタダキ! そっか、アンタは曜術師だったね、曜具として武器を曜術師用の一段階高度な武器へ昇華させる……ああ、考えつかなかったよ! クソッ、これだからクラス分けはダメなんだ!!」 「ぐ、グローゼルさん?」 「ああでも鉱石が足りないッ! アタシの腕を満足させる、この頭の中の素晴らしい武器を現実にするほどの鉱石がぁああっ」  ひぃいい燃えてらっしゃるぅううう。  メラメラしつつ天に向かって叫んでいる相手に、俺が(おのの)いていると。 「ねえ、店主さん。剣はここだけしか無いのかい」  ってブラックお前よくさらっと普通に質問出来るなオイ。  俺の(おび)えなど意にも介さずグローゼルさんに話しかけるブラックに、やっと我を取り戻したグローゼルさんが答える。 「あ、ああ。まあそもそもウチは修理とかが専門だったからね。アタシの代からは改造やら見本としての武器やら売り始めたけど……気に入ったのは無かったかい」 「どれも強度がない気がしてね。贅沢なのは解ってるけど、アダマン鋼くらい無茶の出来る剣はないのかい」  無茶してる自覚はあったのか。  いやまあ石相手に斬りかかるってのも、今よく考えたら無茶だったよね。  でも、石も斬れちゃうような武器が有れば確かに助かる。 「無茶の出来る剣か……無い事も無いが…………しかし、そうなると鉱石が必要だ。アダマン鋼の剣を持ってるなら知ってるだろうけど……アンタの剣以上のモンとなると、ハサクかミスリルのどっちかの鉱石がないと作れないよ」 「やっぱりそう来るか……」  ミスリルってあれじゃん。ゲームで良く出て来るレアな鉱石じゃん!  って事は、聞き覚えのないハサクってのと合わせてこれらが最硬の三鉱石って事だよな。つまり、レア武器作るならレア鉱石持って来いってことか……。  でも、アダマンの剣でもかなりの値段だったんだから、ハサクもミスリルも相当な値段するんじゃないのか。って言うかそんな鉱石どこで手に入れたらいいの。 「ハサクは無理としても、ミスリルを手に入れられればなあ……そしたら、アンタの連れのボウヤにもお望みの武器が作ってやれるのに」 「ああ、さっきクロスボウが何とかって」 「そうさ。彼のおかげで良い武器を思いついたんだよ。ミスリルやハサクみたいな最高の鉱石なら、実現できるんだけどね……それにアンタも曜術師なんだよな? なら、アンタの剣も更に強化してやれるかもしれない」  地面にあぐらをドンと掻いて、あられもない姿でグローゼルさんはボリボリと頭を掻く。この言葉にはブラックも興味を引かれたらしく、目を(しばたた)かせながらグローゼルさんをみやった。 「強化って、例えば?」 「月並みだけど、曜術の火を(まと)わせたりな。今までは水晶以外の金属に他の属性の曜術を付加する事は不可能だったけど、曜具の作り方を応用すれば可能かもしれん。ただ、刀身に細工をするとなると最硬の三鉱石じゃないと無理なんだよ。他の鉱石じゃ割れちまう」 「炎を纏う剣か……それはいいね」  お、意外と乗り気だ。  やっぱりブラックもロマン武器とか好きな方なのかな。  俺も魔法銃もといマジッククロスボウは物凄く欲しい。手持ちのお金でどうにかなる物なら、是非ともグローゼルさんに作って頂きたいんだが……しかし、鉱石はどこで手に入れたらいいんだろう。  まさか、そこらへんを掘ればでるって訳でもないしなあ。 「あの、グローゼルさん。鉱石ってどうやって入手するんですか?」 「普通は自分で採掘してくるんだけど……三鉱石は採取できる場所には必ずお役人がいるし、どうしてか最近は全く出回ってこなくてねぇ……あとは……確率は低いけど、それ以外で採掘できそうな場所が有るにはあるが……」 「それって、どこなんです?」  近場ならなお嬉しいが、どこだろうか。  そう思ってブラックと一緒に胡坐(あぐら)をかいた妖艶な美女を見つめると、彼女はバツが悪そうな顔をしておずおずと呟いた。 「それが……アタラクシアっていう遺跡が在る所の周辺なんだけどさ……そこには変な守り人がいて、そいつらが採掘を邪魔してくるんだよ。だから、鉱石を持って帰るのがものすっごく難しくって……」 「………………」  ……姐さん、朗報です。  俺達、そこに行く予定だったんですよ。 →  
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