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出発
「何か不倫旅行みたいだな。俺たち。」
恥ずかしかった。
およそ3時間あの人を独占できる間に何か変わるかもしれないなんて期待していた自分が恥ずかしかった。
”みたい”の裏に隠されているのは似ているけどそうではないということ。あの人にとってあのフレーズは、単なる比喩表現のひとつだった。面白い冗談だと言わんばかりのあの無邪気な笑い顔と声がそれを物語っていた。
13時07分高速列車の2列シートは、1週間分の荷物を入れたスーツケースを置くと足元がいっぱいになった。
各車両の後方部分には大きな荷物を置く専用のスペースが設けられていたが、外国で荷物1つを置いておくのも心配なので座席に持ってきたが、少し後悔している。
あの人は明日には帰るから仕事用の鞄をひざの上に置き、2つの手荷物を足元に置いて十分に足を伸ばして座っている。
いつもそうだ。あの人からは重さが感じられない。
窓から海が見えると聞いていたが、まだ住宅街と雑草地帯が過ぎていくだけである。
早く海が見たい。
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