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「しばらく、此処で休んでいろ」
「え、でも……」
ホテルを前にして水姫は躊躇いを見せたが、俺にはまだ仕事が残っている。
「最上階を用意させてある。好きにしていろ」
泣いたまま放っておけるはずがない。後でもう一度迎えに来ると告げて、水姫をホテルマンに預けた。
「暁らしくないですね」
運転席から、北川律が声を掛けてくる。立場場、他人の前では態度を崩さないが、学生時代からの長い付き合いで遠慮が無い。
「――律」
後部座席にもたれかかり、深く溜め息をついた。
「どうしました?」
「……いや、なんでも無い」
まいったな、俺がペースを乱されている。
「暁、惚れましたね」
「……笑うな」
律は頭の回転が早く勘がいい。俺は時々律が苦手だ。
惚れた――
数年前に水姫とは逢ったことがある。たった一度きり、一夜だけの関係。あいつを抱いてそれで終わった。まさかまた、お前と出逢うとはな。
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