母からの電話

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「お父さん、ボケてきたのか夜明けとともにいなくなるのよ」 どうやら数週間前から父が徘徊し始めたらしい。父は厳格な人で定年を迎えるまでは高校で数学の教師をしていた。 「気になって、眠れないの。まだ薄暗いのにパジャマのまま出かけて、三時間ほどしたら帰って来るんだけどね」 「認知症?それは心配だな」 母は最初は浮気でもしてるのかと問い詰めたそうだが、本人は記憶に無いと言ってるらしい。それ以来、その件の話をすると癇癪を起こして凄い勢いで怒るらしい。 「まさかその歳で浮気はないだろ?」 「そうだけど。お父さん、教師の頃モテたでしょ?」 それは遠い昔の話だったが、女子生徒との恋愛疑惑があり離婚騒動になった事がある。母はそのことも思い出して不安と恐怖で不眠症になってしまったらしい。 「尾行っていうの。それ、あなたにお願いします」 母は真剣だった。とにかく父が夜明けに徘徊して何をしているのか僕に確かめて欲しいと頼んだ。
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