夜明けの散歩

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街灯の少ない田舎町の通りは暗く車も人通りも無い。その寂しい夜道を長靴を履いたパジャマ姿の父がシャベルと洗面器を持って足早に歩いて行く。 母が心配したように、僕はその異様な後ろ姿を見て言い知れない哀しみで心を掻き乱された。 あの厳格な父がボケて徘徊するなんて想像すらできなかった。 これが老いるということなのか? 僕はその後ろ姿を見失わないように、距離を置いて物陰に隠れながら尾行した。 そして父はすぐに坂道を上がり、野山の方へ向かった。 この町は江戸時代に金山として栄えた町である。いわゆるゴールドラッシュとして、その名残のある鉱山跡地や古い町並みが残っていた。 父は今やゴーストタウンとなってしまった廃墟を僕に見せつけるように数分間徘徊すると、鉱山の下流にあたる川面を脇道からジーっと眺めていた。
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