奇跡の顛末

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奇跡の顛末

それから僕は田舎の家をあとにして、妻と一泊二日の温泉旅行に出かけた。 その老舗旅館の露天風呂に一緒に入って、美しい渓谷の眺めを堪能しながらその後日談を話した。 「それでお父さんは?」 「すっかり落ち着いたみたいだ。きっと、結婚指輪を投げ捨てられたのが頭から離れなかったんだろうな」 「でも、川の反対側から投げたんでしょ?数十年で水に流された筈だし、よく発見できたわね?」 「母が言うには、百メートルくらい流されてたらしい」 「ほんと凄いことだわね」 「何故それを見つけて母にプロポーズしようと考えたかは不明だが、幸せにする使命感を感じていたようだ」 「認知症が逆に執念と愛情を呼び起こし、奇跡を巻き起こしたってことかしら?」 妻はそう言って、暖かい湯を手ですくって頬につけて微笑んだ。 そして僕らはまだ知らない事であるが、父はその二年後に喉に餅を詰まらせて亡くなり、母はその翌年に病気で逝ってしまった。 その時の遺言で、川で発見された奇跡の指輪は妻に贈られた。 きっと死ぬまで二人で幸せに暮らしなさいということだろう。 [end]
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