稲荷山小学校

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ

稲荷山小学校

稲荷山小学校の二年一組は賑やかだった。誰も彼もが真っ黒に日焼けしていて、楽しい夏休みであったことは疑いの余地はなかった。 「ねえ(るー)君、今年夏休みにタヒチに行ったのよ。はい、お土産。大きな白い貝殻」 「ありがとう。サザエかな?名前が彫ってあるね。僕の名前と横にーーあれ?ミクルちゃん?」 隣の席のミクルちゃんは真っ赤になって俯いた。 きゃーきゃー女子に囲まれている流紫降を、険しい目で睨みつけている数人の生徒がいて、その中心にいるのは(ジャスパー)だった、 「け、いい気なもんですね。碧様」 口火を開いたのは飯田御岳(いいだみたけ)と言い、大きな図体が自慢の生徒だった。要するにジャイなアレだった。 一年の初日に碧の手下になった。 「様はよせ、私も少し変わった」 「で、では何てお呼びすれば?」 そう問うたのは痩せたチビの滑骨俊介(なめりぼねしゅんすけ)と言い、自家用車が大概三人乗りの嫌味ったらしい生徒だった。 「名前で呼べばいいだろう」 「へえ。へへ、じゃあーー」 飯田は愛想笑い共々碧の顔を見て、滑骨共々言葉を失っていた。 何というか大人びていて、母親譲りのショートヘアーの後れ毛を見て、露骨にドキッとさせられていた。 ジャイスネが言葉を失っている時、流紫降は沸き立つ女の子達をよそにタウン情報誌を開き、嬉しそうに微笑んだが、その意味を知る者は一人もいなかった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!