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稲荷山小学校
稲荷山小学校の二年一組は賑やかだった。誰も彼もが真っ黒に日焼けしていて、楽しい夏休みであったことは疑いの余地はなかった。
「ねえ流君、今年夏休みにタヒチに行ったのよ。はい、お土産。大きな白い貝殻」
「ありがとう。サザエかな?名前が彫ってあるね。僕の名前と横にーーあれ?ミクルちゃん?」
隣の席のミクルちゃんは真っ赤になって俯いた。
きゃーきゃー女子に囲まれている流紫降を、険しい目で睨みつけている数人の生徒がいて、その中心にいるのは碧だった、
「け、いい気なもんですね。碧様」
口火を開いたのは飯田御岳と言い、大きな図体が自慢の生徒だった。要するにジャイなアレだった。
一年の初日に碧の手下になった。
「様はよせ、私も少し変わった」
「で、では何てお呼びすれば?」
そう問うたのは痩せたチビの滑骨俊介と言い、自家用車が大概三人乗りの嫌味ったらしい生徒だった。
「名前で呼べばいいだろう」
「へえ。へへ、じゃあーー」
飯田は愛想笑い共々碧の顔を見て、滑骨共々言葉を失っていた。
何というか大人びていて、母親譲りのショートヘアーの後れ毛を見て、露骨にドキッとさせられていた。
ジャイスネが言葉を失っている時、流紫降は沸き立つ女の子達をよそにタウン情報誌を開き、嬉しそうに微笑んだが、その意味を知る者は一人もいなかった。
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