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少女は一人ではなかった。
黒衣に身を包んだ銀髪長身の若者が少女を肩に乗せて闇の中、中空に浮かんでいた。
若者はゆっくりとキョウジに近付く。
かしゃん。
少女が若者の肩を離れて床へと降り立った。
キョウジの最後の理性は呆気無く吹き飛んだ。
「ヒィッ……ヒャァアアア……!」
四つん這いになって必死に逃げようとするキョウジだったが、目の前には彼自身が作ったバリケードが立ち塞がっていた。
ガシャガシャとバリケードを壊そうとするキョウジを少女は冷ややかな眼差しで見ている。
「……『無明』」
少女は背後の若者の名を呼んだ。
だが待て。
『無明』とは少女の持つあの大鎌の名ではなかったか。
すると、銀髪の若者は見る間にその姿を変えていった。一振りの大鎌に。
少女は大鎌を構えるとゆっくりとキョウジに近付いていく。
キョウジは半狂乱になってバリケードを解除しようとしていた。
「“悪しき魂”……今宵、我が刃『無明』の贄となれ。“悪しき器”……今宵、我が匣にて傀儡となれ。……斬!」
大きく振りかぶった巨大な刃が真っ直ぐキョウジの背中へと吸い込まれた。
刃先がキョウジの胸元へと突き抜ける。
キョウジの胸元から拳大の紅い珠が零れた。
「……『無明』変幻」
少女の手から大鎌が離れ、キョウジの身体を突き抜ける。
途端に輪郭がぐにゃりと歪んだかと思うと大鎌は若者のカタチを取り、大きく口を開けて紅い珠を飲み込んでしまった。
次の瞬間。
キョウジの身体がみるみる縮んでいった。
5㎝程の大きさになったキョウジの身体を少女の指がつまみ上げる。
「これで……“傀儡”回収693体目…」
若者……『無明』が黒衣の懐から小さな『匣』を取り出す。
少女は『匣』の蓋を開けると、“傀儡”と化したキョウジをその中に仕舞い込んだ。
元通り蓋を閉め、『無明』に渡す。『無明』は無言で『匣』を黒衣の中へと仕舞った。
「回収完了……『無明』……帰るわよ」
『無明』が少女を肩に担ぎ上げる。
「彼女が無事で……ホント良かった……」
少女は言葉と共に闇に溶けた。
ミサトは何も知らぬまま、昏々と眠り続けていたのであった。
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