欲望の傀儡

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 あれから数ヵ月経った。  ミサトは住んでいたマンションを引き払い、ユウジが生前住んでいたマンションへと移った。  ユウジはミサトの世界そのものであった。  ミサトは自分を保つ為にもユウジの面影をひたすら求めたのだった。 ―ピンポーン―  ぼんやりと想い出に浸っていたミサトはインターホンの音で我に返った。 「……誰かしら?」  モニターを覗き込むとそこに映っていたのはキョウジだった。 「キョウジ? どうしたの?」  インターホン越しの問いかけにキョウジが努めて明るく答えた。 「夕飯まだだろ? 食事に誘いに来た」  あれからキョウジは何かとミサトの世話を焼く様になっていた。 「ありがとう、でも……」  躊躇うミサトの気持ちを見透かした様にキョウジが言葉を重ねる。 「ミサトが体調崩したらユウジが心配するぞ? そんな事になったら俺がユウジに怒られる。『お前、医者のクセに何やってんだよ!!』……ってね」  いかにもユウジが言いそうだ。ミサトは思わずクスッと笑った。 「……待ってて。10分で支度するから」  30分後。  二人はこじんまりしながらも雰囲気の良いレストランにいた。 「素敵な所ね」  ミサトが店内を失礼にならない様に気遣いながらそっと見回す。 「だろ? ここは俺の知り合いがやっててね。……ユウジも気に入ってた」 「……ユウジが?」  ミサトがゆっくりとキョウジに視線を送る。  キョウジは指を組んだ上に顎を乗せた姿勢でミサトの視線を受け止めた。 「あぁ。『いつかミサトを連れて来てやりたい』……そう言ってたよ」 「そう……」 「だから俺はユウジの代わりにミサトを連れて来たんだ。……まぁ、俺じゃユウジの代わりは務まらないだろうけど今日だけは我慢してくれよな?」 「そんな……キョウジにはいつも良くしてもらって感謝してるのよ?」  キョウジはにっこりと笑った。 「そう言ってもらえると嬉しいよ。さて、と♪ そろそろオーダーしないと俺の腹の虫が餓死寸前だ」  キョウジはウェイターを呼ぶと手慣れた様子でオーダーする。  ミサトは彼にオーダーを任せ、もう一度店内を見渡した。 ユウジ……本当なら貴方と一緒に来たかった……
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