欲望の傀儡

4/18
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「御馳走様。とても楽しかったわ」  車から降りようとしたミサトの手をキョウジが取った。 「キョウジ……?」 「……ミサトがユウジを忘れられないのはわかってる。だけど……こんなミサトを見てられないんだ。俺は、俺は……」  キョウジは言葉を切り、そっと手を離した。 「ごめん……こんな事言われても迷惑だよな」  ミサトは引いた手をぎゅっと握り、静かに首を振る。 「迷惑だなんて……でも……ごめんなさい、やっぱり私」 「いいんだ。“わかってる”って言ったろ? 気持ちを伝えたかっただけだから……明日からまたいつも通りに接してくれよ」 「……」  キョウジは車を降り、助手席のドアを開けた。 「おやすみ、ミサト」 「……おやすみなさい」  一人、部屋に戻ったミサトは動揺していた。 《キョウジが私を……?》  そんな事、考えた事も無かった。ミサトの世界はそれほどユウジによって占められていたのだ。  目を閉じたミサトの脳裏にユウジの笑顔が浮かぶ。 「ユウジ……」  呟いたミサトの頬に涙が伝った。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!