欲望の傀儡

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 更に数ヵ月後。  ミサトは小さな花束を持ち、とある交差点へと来ていた。  ここはあの日ユウジが事故に会った場所だ。  ミサトの足が止まった。  そこにしゃがみこみ、両手を合わせる女性の姿を見たのだ。  花束を置いて立ち上がった女性の横顔を見てミサトは眉を寄せた。 「あの人……どこかで見たような……」  足早に立ち去る女性の後を追ってミサトも歩き出す。  その女性はとある喫茶店に入った。ミサトも少し遅れて店に入る。ゆっくりと女性の座るテーブルへと近付いた。  女性はまったく気付かない様子でぼんやりと目の前で湯気を立てるティーカップに視線を注いでいた。  ミサトが向かいの席に座るとようやく怪訝そうに顔を上げる。ミサトを見る女性の顔にたちまち驚愕の色が浮かんだ。 「あ……」  立ち上がろうとする女性を制し、再び席に着かせる。寄って来た店員に同じものを注文した。  店員がカップを置いて去るまで長い長い沈黙が続く。 「私を知っているのですね」  ミサトがカップを口に運びながら女性に訊ねた。  女性はビクッと身体を震わせた。  間を置いて消え入りそうな声で返答があった。 「……病院で……」  その瞬間、ミサトの脳裏に彼女の姿が思い出された。 「あの時の……看護師さん……」  女性は小さく頷いた。  そうだ。ユウジが運ばれた時についていた看護師さんだ。  だが、今目の前にいる彼女にはあの時のキビキビした姿は微塵も感じられなかった。何かに怯えた様に目を伏せたまま、黙りこくっている。 「何故ですか? ユウジは……彼は大勢の患者の一人に過ぎません。例え亡くなっても貴女がわざわざ事故現場まで花束を持ってくる理由は無い筈です」  ミサトの言葉に女性が苦悶の表情を浮かべた。  そして。  女性はミサトに衝撃的な事実を告げたのだった――。
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