欲望の傀儡

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 携帯が鳴っている。  キョウジはソファーから身体を起こして携帯のディスプレイを確認する。 『ミサト』  慌てて通話ボタンを押した。 「もしもし?」 『急に電話してごめんなさいね……今大丈夫?』 「あぁ。ちょうど仮眠中だったから」 『そう。キョウジ、今夜時間あるかしら?』  キョウジは驚いた。  ミサトから電話してくる事も初めてだったからだ。  ましてや自分から誘ってくるとは。 「今夜……はちょっと……一応当直なんだ」 『そう……残念だわ。私、キョウジに話したい事があって…会いたかったんだけど……』  思いもよらないミサトからの言葉にキョウジの心臓が高鳴った。  無意識に唇を舐める。  会いたかった。  そのミサトの言葉にキョウジは昂っていた。 『じゃあ……』  電話を切ろうとする気配を感じ、キョウジは慌てて携帯を握り直した。 「待った。当直と言っても呼び出しがかかるのを待つだけだから……病院に来れないか?」 『病院に? でも……他の患者さんや看護師さんに見られたり聞かれたりしたら……恥ずかしいわ』  キョウジの昂りは最高潮に達した。 「大丈夫。病院の裏手に非常口があるからそこからすぐの階段を昇ってくれば誰にも見られないって。その4階は研究室だから夜は無人なんだ。そこの階段すぐ横の部屋で待ってるよ。お茶くらいなら出せるしね♪」  必死さを悟られまいと、わざとおどけてみせたキョウジに電話口の向こうでミサトがクスリと笑った気配が届く。 『じゃあ……11時頃でも大丈夫?』 「あぁ。遅いから気をつけてな」 『じゃあ……』 「じゃあ」  電話が切れた後もキョウジは携帯を握り締めたままだった。  やがてキョウジの唇が欲望の形に歪む。  ──やっとこの日が来た。  無意識に唇の端を舐める。  ずっとミサトが欲しかった。  ユウジが独り占めしているのが許せなかった。  ずっとずっと不愉快だったのだ。  でも。  やっと手に入る。  キョウジは喉の奥からくつくつと渇いた笑いを洩らす。  その顔はどす黒い狂気に染まっていた。
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