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「俺、このまま死ねねえって思ったんだ。お前に聴かせたい新曲が出来たのに、渡せないままだったから」
俺は腕の骨が折れていて取れないので、颯太に棚の上に置いてあるスマホを取るように言った。画面はひび割れているが、中身は無事だった。
「イヤホン持ってるか? 個室だから、小さい音なら怒られねえとは思うけど」
「大丈夫、あるよ」
俺のスマホにイヤホンのプラグを差し込み、画面を操作する。いつも俺が曲を入れているアプリを立ち上げているのだろう。
「歌詞は、メモ帳にあるから……聴きながら、読んでみてくれ」
「分かった」
今更になって、恥ずかしくなって、俺は視線を窓の方に向けた。
俺の作った曲をどう思っているだろう。喜んでいるだろうか、戸惑っているだろうか。やっぱり、あの時の告白は冗談だったって、言われないだろうか。
「……っ……」
嗚咽のような声が聞こえて、振り返る。見ると、颯太はスマホの画面を見つめたまま、涙をぽろぽろと零していた。
泣かないで欲しい、涙を拭ってやりたい。抱き締めて、今まで傷付けたことを謝りたい。けれど、全身の骨が折れていて起き上がることすら出来ないことが歯痒かった。
曲を聴き終えた颯太は、今まで一度も恋の歌を書いたことのない人間が、どうして書いたのか、「これからもずっと一緒にいよう」という詞が誰に向けたものかに気付いたはずだ。
「……大輝、俺……自惚れてもいいんだよね……?」
涙を拭いながら俺を見詰める颯太に、俺は微笑んだ。そして絶対に、もう傷付けないで済む言葉を言わないといけないと思った。生死を彷徨っていた時、俺はその事を考えていた。誰かに……きっと神様に、その後悔を告げて、俺は戻れたような気がするから。
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