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「とりあえず何処かに座って話しましょう。貴方がここにいる理由も分かるかもしれませんし」
男を落ち着かせ、近くにあったベンチに座る。男は通り抜けるのでは、と一瞬躊躇したが、僕の隣に恐る恐る腰を下ろした。
「まずは自己紹介から。僕はリュウという者です。仕事柄、幽霊が見えて触ることができます」
「霊媒師とか?」
「まあそんなものですね。この時間は貴方みたいな人に遭遇しやすいので、今夜もパトロールしていたんですよ」
男はさして僕のことには興味がないらしく、「へえ」と言っただけでそれ以上質問もしてこなかった。今重要なのは自分のことだけだろうから。
「俺は大輝、今年大学に入った……十八」
「お若いですね」
大輝さんは俯いて「うん」と噛みしめるように頷いた。たった十八年で死んだ自分に思いを馳せているのだろう。
「いつ亡くなったんです?」
「……それが、分からねえんだよ。カラオケボックスで、曲作りして、完成して、家に帰ってる途中のところまで覚えてんだけど……」
項垂れ頭を抱えている大輝さんの後ろ頭を見下ろす。僕は小首を傾げて、「ふむ、それは妙ですね」と呟く。
「どこかで死ぬような目に遭ったはずなんです。車に轢かれたとか、誰かに刺されたとか、突然胸が苦しくなって、とか」
考え込んでいた大輝さんは、何か思い出したように目を見開いて顔を上げた。
「横断歩道の信号待ち、してた……後ろに建設中の高層ビルがあって……風が強く、吹いて……危ないって、誰かが叫んだ気がした」
「ふむ……もしかしたら、落下物に巻き込まれて亡くなったのかもしれませんね」
辺りを見渡すと昼間は繁華街で賑わっていそうな場所で、この付近で事故があった様子ではないので、事故現場の近くに残ってしまった霊という訳ではなさそうだ。
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