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届け私のメッセージ(1)
「では超遠距離恋愛、というわけですね?」
店主は目を細めながら、ヒゲをジョリジョリと撫でた。
大きな体と短く刈り込んだ髪。黒いエプロンの中央にプリントされている可愛らしい猫の絵が、店主の風貌と似合っていなくてちょっと可笑しい。
「もう結婚しているので、恋愛、と言うのもアレですけどね」
せきなの丸っこい半月型の目が、柔らかく微笑んだ。
白いロングワンピースの腰はきゅっと絞られていて、腰の細さが際立っている。
その色とは対照的な長い黒髪がさらりと揺れた。
サービスで出してもらったコーヒーを口元に運ぶ。
猫舌の彼女はゆっくりと静かに、その香りを楽しんだ。
小さな丘の上のぽつんと建っているログハウスのなか。
四つあるカウンター席には一人しか座っていない。
照明は明る過ぎず、ピアノの優しいメロディーが心地よい。
そんな、まるで喫茶店のような店内で、カウンター越しに二人は会話している。
せきながこの店をチョイスした理由は二つあった。
一つ目は他店に比べ驚くほど格安だったこと。
もう一つは事前に営業時間を尋ねたとき、
『そんなものはありません。好きな時に来てください。あなたがそれを送りたいときに』
と言われたのが気に入ったからだ。
だからせきなは非常識な時間にも関わらず客として訪れた。
とっくに深夜と呼ばれる時間帯である。
しかしこれくらいのわがままは許してくれるだろう、とも思っていた。
だって旅立ったあの人のために、これからスペシャルなことをするのだから。
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