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何か狙いがあるのか?
だとしたらそれは何なのか?
友達に店を紹介するでもなく、労働力になるわけでもなく、モニターとして味の感想を伝えるわけでもない僕に、ご飯を食べさせることによる店主のメリットは何だろう?
もしかして、再び職についたらこれまでの分を返済させられるのではないかーー?
半年分の食費。
一食八百円として、月二十五日として、六ヶ月で、十二万円。
なけなしの貯金が毎月大きく減り続けている今の僕には、不安を感じるほどの大金だった。しかもこれからまだ増えていく。それが自分の負債としてのし掛かると思うと、ゾッとした。
いやいや、そんなはずはない。
だって、店主は「お金はいらない」と最初で明言したのだ。
でも、でも店主だってまさかこんなに長く続くとは思っていなかったのではないか。ひと月やそこらのつもりが、いつまで経っても終わりが来ないから、内心は辟易しているかもしれない。
そもそも、残り物をもらうという話だったのに、僕は何度もパスタを作ってもらっている。それだけじゃない。おかずを作り足してもらうことも度々あった。それらは全部別カウントされてるかもしれない。
考えれば考えるほど、不安はどんどん膨らんでいった。何より、体調とお金のことだけで頭がいっぱいで、後でツケが回ってくるかもなんて考えもせずに店主の好意を受け続けてきてしまった自分が怖くなった。
「いらっしゃい、どうぞ」
店主は今日も優しい笑顔で迎えてくれる。
「今日はお客さんが多くてね~。パスタ作るから、ちょっと待ってて」
「あ、あの……!」
僕はそれを止めようと一歩前に出た。そうだ。僕としても、わざわざ作ってもらってまで食べる理由はないのだ。ただ余り物の処理要員くらいの気持ちで、お店の廃棄量を減らすくらいの気持ちで、だからこそ、甘えることができていたんじゃないか。
でも、ここで断ったら。
関係がギクシャクして、もう食べに来れなくなるかもしれない。
「どうしたの?」
店主が動きを止めてこちらを見る。
……いや、ここに来られなくなれば、自宅を教えてもいないんだし、後々代金を請求されることもないだろう。それはそれで好都合とも言える。
とはいえ、今ここに来るのをやめて、また体調が悪くなったら、今度こそ救いの手はなくなるのだ。
もう少し。もう少し元気になるまで、それまでは、何も気づいていないフリをして、これまでどおりに何食わぬ顔で、食事を提供してもらうほうが、得なんじゃないか。元気になってからでも、代金を踏み倒すことはできるんじゃないかーー。
「あ、良ければ作り方教えようか? 簡単だから」
「えっ……」
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