534人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
ここは、怒ったフリをして回避だ。
「邪魔するつもりですか?い、いやです。絶対案内しません」
「馬鹿なっ。木庭くん、私は正々堂々とライバル宣言をしておきたいだけだ」
「ライバル宣言なんて必要ありません。
やめてください。彼とは、まだ何にも始まってないんですよ?傘を貸してもらっただけです」
「しかし、なんて羨ましい男なんだ。木庭くんからのご寵愛を黙って一人で受けるなんて」
「社長…もう帰ってくれませんか?車はどうしました?運転手さんも待ちくたびれてますよ」
道路を眺めて見たが、社長の車は見当たらない。
「車は呼ばないと来ないはずだ」
「どうしてですか?待機させて置いてるのかと」
「いや、運転手には木庭くんから『今日こそ私の家にお寄りください』と言われる気がするから待機してなくて大丈夫だと言っておいた」
「は?正気ですか?」
「ああ、もちろん。キミに言われたら、どんなに時間がなくてもキミの為に時間をさきたい。お寄りくださいと誘われれば、まだ関係を深めるのは時期尚早と思っても、やはりキミの家にあがってしまうだろうし」
なにが、時期尚早だ。
馬鹿らしい。
「心配しなくても誘いませんよ」
「キミに家に誘われたら、俺は断らないつもりだった。だから、車を返したんだ」
「すぐに呼んだほうがいいですよ。車」
「今ならまだ間に合う。俺を誘ってもいいぞ。木庭くん」
社長は私の肩へ手をおいた。
「木庭くん、キミを一人寝させるのは心配だ。今夜も多忙な俺が添い寝しようか?」
何が添い寝だ。
ゾッとする。
「結構です。多忙なら早く帰って下さいっ」
「木庭くん……キミが好きだ」
おっと、出た。真面目ぶった告白。
イケメン面だから、割と始末に悪い。
顔だけみてると一瞬、ドキッとなってしまう。
「へっ、なんで急に」
「木庭くん、俺はキミを大事にする用意がある。誰より何よりも大切にする。だから、いい加減に俺のことを好きになってくれ」
「社長、申し訳ないですが、あきらめて帰ってもらえませんか?」
「ふぅ……キミの壁は果てしなく高いな。わかった、わかった。今日は帰る。また月曜日会社でな。ふぅ」
大きなため息をつかれていた。
ため息をつきたいのは、断然私の方なのに。
「はい、月曜日に。ふーーっ」
「木庭くん、最後にハグだけさせてくれ」
両手を広げる社長。
「嫌です」
「ハグだけなのに。何もキスさせろとは言ってないだろ?はーーハグも無理なら、せめて握手だけは頼む」
仕方なく手を差し出すと社長が両手で私の手を覆った。
「いつか木庭くんが俺を好きになりますように」
握手しながら、ブツブツ念仏みたいに唱える社長。
なんなんだ。この男は。本当にうざい。
世にも奇妙で速く離れたい。
帰り際、
「木庭くん、今夜俺の夢を見るといい」
と極めてキモいことをいった。
★★
ようやくキモイケ社長が帰ってから、私はソファにゴロンと横になった。
「あー、疲れた。あの社長から逃れるには、やっぱ転職しかないのかなー……ふーーっ」
天井を見上げ本気で悩み、また深いため息をついていた。
最初のコメントを投稿しよう!