ある金言

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ある金言

   とある村に文字が読める男がいました。  その村に文字が読める人間はその男だけで、男は大量の本を持っていました。    男は読んだ本の内容を村の人々に伝えて、村の人々からたいそうありがたがられていました。  あるときは公平に田畑に水を分配する方法を教え、感謝されました。  あるときは泣く子どもにゆかいな物語を言って聞かせ、楽しませました。  あるときは大きな川に橋をかけるための技術を伝え、皆が安心して川を渡れるようにしました。  文字が読めない村の衆は男を頼り、本の内容を教えてもらいました。  男はいやな顔ひとつせず、家にやってくる村人たちに教え続けました。  ある年、村は何日も続く大雪に見舞われました。  薪もつき、だれもが寒さで死を覚悟した日、男は皆へ本を配り歩き、こう言いました。 「これを燃やして温まるように」  皆、本を燃やし、男の家にあった本が何もなくなった頃、ようやく冬が明けました。
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