第一話 南 瓜太郎

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「そうですよ! こんな麗しい殿方達に囲まれて流されて……兄様が衆道に走ってしまったらどうしましょうー!!」  どうしよう、という割に宮子が嬉しそうに頬を赤らめて「きゃー!」なんて叫んでいる。 「は……衆道……?」 「だって兄様! どの殿方と結ばれても絵になるじゃないですか! 櫻野さんのような美丈夫も良し、隊長さんのような穏やかな方の愛に包まれるも良し、年下も有りですわね! 自分を先生と慕ってくれている後輩が実は想い寄せていて、いつかその昂った想いが暴走して……あぁ、胸の高まりが止まりませんわ!」  まるで何か弾けたかのように興奮して語り出す宮子に、南が驚いたように一歩後退る。宮子は一体何の話をしているのだ。それよりも宮子の口から『衆道』なんて単語が飛び出すなんて。  衆道の意味は南だって知っている。多分ここに居る隊員達もそうだろう。ここでは別に特異な事ではないし、上流階級の家の主人が本妻の他に男の愛人を抱えているなんて珍しくもない。  だからといってそれを自分達に当てはまらせるなんて、南ですら想像してなかった。だってここは特別守護隊なのだ、同じ志を目指す同士達が集まっている。恋愛事に現を抜かすなんて思いもしないだろう。 「宮子……? それは無いと思いますよ?」 「そう思っているのは兄様だけではなくて? 人は誰かを愛さずにはいられないのですよ? いつどんな間違いがあるかも解りませんよ?」  そう言いながらも宮子はニヤニヤと怪しい笑みを湛えて南を見つめている。 「そんな事ありませんよ。ねぇ、皆さん?」  同意を求めようと南が顔を上げてその場に居る隊員に視線を向けると、隊員の何人かがさり気なく視線を逸らしていた。 (え、あるんですか?)  何だか深く追及してはいけない気がして、南は動揺しそうになる心を鎮めるようにふぅ、と息を吐く。誰にだって詮索されたくない事情はあるだろうし、それを宮子の前で話してしまったらまた宮子が興奮してしまいそうだ。 .
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