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どんよりと灰色の雲がかかり、昼間だというのに薄暗さを感じさせる空の下。特別守護隊副隊長である櫻野餡次郎は部下の白石春之助を率いて町の巡回に出ていた。
いつ雨の雫が零れてもおかしくない天候の中なのに、町の人々はいつも通りに活気づいている。店先の奉公人が客の呼び込みをし、女性同士がお喋りに花を咲かせ、子供は元気に走り回る。
そのいつもの光景にどこか不審な点は無いか目を光らせるのが守護隊の役目だ。
「副隊長の櫻野さん自ら巡回に出るのって、久々じゃないですか~?」
そんな中、まるで呑気に散歩でもしているかのように軽やかに歩く白石が櫻野に話し掛けてきた。
「最近は書簡の整理とかで机に向かいっぱなしだったからな。たまには外に出て息抜きでもしようと思っただけだ」
忙しい時は巡回は部下に任せていた。そもそも机仕事は隊長である栗林や事務の南が主に行っていたが、それでも手が足りないと櫻野も手伝っていたのだ。元々櫻野は室内で書簡と睨み合うより、外に出て身体を動かす方が好きだった。
この特別守護隊の隊長は栗林だが、実際に現場に出て隊員達を指揮して動くのは櫻野だ。
栗林は国の重要人物との面会や会議等に出掛けたりと、国と特別守護隊との架け橋のような役目。南はその補佐と勘定方、その他の雑務をこなしている。ならば実質的に隊を率いるのは副隊長である櫻野しか居ない。
「息抜きなら何か甘い物でも食べませんか~?」
「息抜きと言ったのは撤回する。巡回も仕事だぞ、遊びに来てる訳じゃねぇんだ」
白石の提案をバッサリと切り捨て、先を急ぐように櫻野が足を早める。その後ろを「つまんないな~」とヘラヘラ笑いながら白石も着いて歩いた。
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