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瓦屋根や木造の平屋の住宅が並び、道行く人々は着物や袴を履き髪を結い上げている。まるで日本の江戸時代のような街並みではあるが、ここは日本ではなく江戸時代でもない。
切り取られた箱庭のような小さな世界。でもそんな世界にも必死に生きている者達が居る。そして『侍』と呼ばれる者達も。
その侍の一人である南瓜太郎は困惑していた。
「お初にお目にかかります。瓜太郎の妹、宮子でございます。いつも不肖の兄がお世話になっております」
南 瓜太郎が所属する部隊、特別守護隊の屯所として使用している邸宅、その客室の畳張りの和室で南の妹である宮子が正座をして三つ指をつきお辞儀をしている。その向かいには隊長である栗林実次が、躾の行き届いた妹の所作に感心して「うんうん」と頷いているのだ。
普段は口煩く、お転婆な妹が自分の上司に丁寧な挨拶をしている。それは問題ではない。宮子がこの屯所に来たのは自分の上司や同僚の偵察に来たのだと知らなかったのなら、妹も大人になったものだと感傷に浸れたのに。
「妹さんが来るのは聞いていたが……南君にこんなに美しくてしっかりした妹さんが居たとは、思いもしてなかったよ」
「まぁ、お上手ですわね」
齢十四ともなれば『美しい』と言われて嬉しいのだろうか、宮子が着物の袂で口元を隠し「うふふ」なんて上品に微笑んでいる。
南が知っている宮子は南がこの町に一人で越して来る前の、十歳で同い年の男の子を追いかけ回し木登りをしては両親に叱られていたお転婆な印象しかない。それから四年も経ったのだ、宮子も大人になり落ち着いたのだと思えばそれ程心配する事も無いのだろうが、田舎から仕事の為にこの町に来る予定だった叔父に無理矢理着いてきて、再会するなり
「兄様の職場に行きたいです。いつもぽややんとしている兄様がちゃんと仕事をしているのか、職場の人達に虐められていないか心配なのです!」
と言い出したのだから。
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