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「栗林様、不躾なお願いではございますが、この屯所内を見学させては頂けないでしょうか?」
母親似のクリクリした大きな瞳に期待を宿し、宮子が栗林をじっと見つめてその返答を待つ。
「男所帯のこのむさ苦しい屯所を見学しても、女の子が楽しいと思える物は何も無いよ?」
「構いません。兄がどのような環境で生活しているのが、遠く離れて暮らしている私の両親も心配しているのです。どうかお許しを頂けませんか?」
両親の事まで出されたら栗林も拒否は出来ないのだろう。南に「案内してあげなさい」と優しい声で促してきた。
「隊長、良いのですか?」
この屯所内には見られて困る物は何も無い。そう、何も無いのだ。特別守護隊としての極秘任務に関わるような物は。
この特別守護隊は、一般人にはこの国を守る為の特殊部隊だと思われている。それも間違いではないのだが、実際に守護隊が守っている物、守らなくてはいけない物はこの国の基盤とも言える至宝。その存在は一部の者にしか明かされていない。
そしてその至宝はこの国の中心であるアンパン城に密かに祀られている。だから一般人はその存在を知らず、守護隊は国の為、国民の為にあるのだと信じきっていた。
「南君が案内してくれるなら、大丈夫だよ。隊員のほとんどは町に見回りに行っているから屯所内に居ないし、仕事の邪魔になるという事も無いだろう」
「隊長がそう仰るなら……」
隊長である栗林からの許可を得た宮子が、嬉しそうに「ありがとうございます!」と瞳をキラキラと輝かせていた。そんな妹の様子を見て、気弱な性分の南が流されてしまうのも当然だろう。
「隊長の心遣い、感謝致します」
きっちりとお礼の言葉を述べてお辞儀をする南に倣い、宮子もまた栗林にペコリとお辞儀をした。
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