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「兄様、隊長さんってとても優しい方なのですね! 戦部隊の隊長と聞いていたから、もっと鬼のように恐ろしい方かと思ってましたわ!」
栗林との対面を終え客室を離れた宮子は緊張から解放されたようで、さっきまでのお淑やかさはどこに行ったのかというくらいはしゃいでいる。
「隊長は優しいですよ。隊長と言うだけあって剣の腕も立ちますが、それ以上に頭の回転も早く仁義に溢れたお人柄です。とても尊敬出来るお方です」
兄がここまで相手を褒めて敬うのを初めて見たのか、宮子が自分より背の高い兄をじっと見上げる。
「何ですか」
「いえ? 兄様がそこまで惚れ込んだ方なんて、今まで聞いた事も無かったので……隊長さんは兄様の特別なのですね」
「特別……まぁ、そうですね。あの方に出会わなければ、私は守護隊に入りたいと思わなかったでしょうね」
まずはどこを案内すべきなのか、南は当てもなく屯所内の廊下を歩いている。その隣では物珍しそうにキョロキョロと周りを見回す宮子の姿。
別に屯所として使用はしているが、何の変哲もない邸宅だ。何が珍しいのかも解らない。ただ離れは改築して道場として使用しているから、そこは普通の邸宅とは違うのか。
「私、兄様が守護隊に入りたいと言い出した時の事、あまり詳しくは知りませんの。父様と母様が心配していたのは知ってますが……」
当時十歳の妹には、詳しい事情は話していなかった。子供だから話しても解らないだろうと思っていたのも事実だ。でも両親に反対され、家業の料亭を継ぐようにと叱られ、ギスギスした雰囲気の中で不安にさせていたのだろう。
今なら話してもいいのではないか、そう考えた南はまず宮子を庭に案内した。
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