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「鶯谷君、下がって」
鶯谷の背後に迫るのは、木刀を構えた黒木。安納は腰から刀を鞘ごと抜き、鶯谷の代わりにその木刀をしっかり受け止めた。
「あれ……安納……さん?」
怒りから我に返ったのか、黒木がちょこんと首を傾げる。驚いたのは黒木だけではない。いつもなら夜まで帰らない安納が真昼間に道場に居るのだ、その道場の中に居た他の隊員達も戸惑いざわついていた。
「これがこの特別守護隊なりの稽古なのかな? 是非とも私にも参加させて欲しいね」
黒木の木刀を払い除け、安納が再び腰に刀を差す。その様子を見ていた鶯谷が「何でお前が此処に居るんだよ!」と喚き出した。
そりゃ、そうだろう。入隊初日に『稽古は必要無い』と参加を拒否した安納が、稽古に参加したいと言い出したのだ。妙だと思わない人間の方がおかしい。
「何でって……私も鶯谷君で遊びたいと思ったからだよ」
「オレで遊ぶって……何企んでんだ?」
安納の含みのある物言いに、鶯谷の警戒心が高まる。そして安納に向かって木刀を構えていた。
「それはまぁ……色々と」
正直に答えない方が鶯谷が面白い反応をしてくれる、それを解ってて曖昧に答える安納の笑みに、鶯谷は案の定「オレに近付くな!」と安納から距離をとる。
「これでも私は『氷嵐隊』でも剣術の腕を認められていたのだよ。鶯谷君に指南してあげよう。もちろん、手取り足取り……」
安納が全てを言い終える前に鶯谷は「要らないっての!」と叫び、安納から逃げるように何処かへ走って行ってしまった。
「ふふっ……鶯谷君は可愛いね」
その安納の呟きに、黒木は「鶯谷が……可愛い……?」と妙な顔をしていたが、逃げる鶯谷の背中を見つめている安納の耳には届かなかった。
【終】
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