第一話 南 瓜太郎

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 屯所の庭は程よい広さで、隊員全員の洗濯物を一気に干せる位だ。敷地の囲いの近くには、隊長である栗林の趣味の盆栽がずらりと並び、横には申し訳程度の丸石で囲まれた小さな池。その池に鯉は居ないがカエルなら居る。  その庭を散策しながら、南は当時の思い出に耽り、ポツリと宮子に語り始めた。 「私が幼い頃から剣術を習っていたのは、宮子も知っているでしょう? でも私には剣術の才は無かった。他人と争うって事が苦手だったんです」  木刀を構え相手と対峙した時点で、相手の気迫に負けてしまう。そもそも剣術を始めたのだって、気弱な性分の自分を見兼ねた両親が無理矢理薦めた物だった。だから南自身、趣味程度の習い事と侮っていた。  他の道場から練習試合の参加者として来た栗林にも、さほど興味を持てなかった。その栗林が木刀を構えるまでは。  栗林は強かった。それまで穏やかにニコニコと微笑んでいた栗林が、木刀を構えた途端に表情をキリッと変え、迷いの無い剣筋で相手を圧倒した。 (こんな強い人が居るんだ)  剣の強さだけじゃない、人間としての信念の強さという物を感じたのだ。そして自分の剣がお遊びである事を恥じた。  そしてその人が国の守護隊へ入隊すると聞き、自分もその高みへと登りたいと考えるようになった。そこから南は剣術を習いながらも何か自分にも出来る事は無いかと必死に模索し、剣術より算術が得意なんだと自覚して守護隊への入隊を決めた。  守護隊で必要とされるのは剣の強さ、入隊希望者も剣術に長けた者ばかりの中、南は学力で勝負した。両親にもいつ死ぬか解らない争いばかりの守護隊の入隊を反対されたが、事務職だと説得して何とか入隊を許されたのだ。 .
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