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その全てを宮子に説明すると、宮子が静かに息を吐きながら「そうですか」と呟く。
「私は何も知らなかったのですね……。でもいいんです、私も兄様が入隊するのを反対してましたから。兄様と離れてしまうのが寂しかったんです。ぽややんとした兄様を守るのが私の使命だと思っていたから……」
「そもそも、そのぽややんってのは何ですか。私はぽややんとしてません」
「自覚してないのが罪ですわ」
わざとらしく溜め息を吐く宮子に、南は首を傾げるしかない。そんな意味不明な擬音で表現されるような性格なんだろうか。解らない。
「それに私が心配しているのは、兄様の仕事の事だけではありません。男ばかりの職場で、兄様に何かあったらどうしようといつも不安なのです」
「別に何もありませんよ。皆さん、優しくていい子ばかりなので」
「いじめられたりしてませんか?」
いつまでも子供だと思っていた妹が、甘えるだけでなく自分の身を心配してくれている。偵察とは言っていたが自分の身を案じてくれていたからこそなのだと思ったら、胸の奥がじんと温かくなった。
「大丈夫です。宮子が心配するような事はありませんよ。ここでは料理番も兼ねているからか、私を母親のように慕ってくれている隊員も居ますしね」
「母親……?」
訝しげに眉を顰める宮子にどう説明しようかと考えていると、不意にどこからかドスドスと土を蹴りながら走ってくる足音が聞こえてくる。それと共に「殺す」なんて物騒な言葉も。
「へっ! お前みたいな豆粒野郎にオレが殺られるかっての!」
「誰が豆粒だ!」
そこに現れたのは守護隊では珍しく槍使いの、新緑のような色の髪を後ろで一つに纏めた鶯谷緑郎。それを追いかけるように軽やかに走り、木刀を振りかざす黒髪で背の低い黒木麻胡だ。
(またですか……)
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