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鶯谷と黒木のこの物騒なやり取りは、いつもの事だ。寧ろこのやり取りが無い日はないというくらい。
「ほら、来いよ!」
鶯谷が足を止め、迎え撃つかのように振り返る。そこに黒木が木刀で打ち込むが、黒木には瞬発力はあっても鶯谷程の力が無い。鶯谷が木刀でそれを打ち返すと、体重の軽い黒木があっさりと吹っ飛ばされていた。しかし見事な着地を見せ、黒木が再び木刀を構える。
このままじゃ埒が明かない、と南は仲裁に入る事にした。
「二人共、そこまでにしておきなさい。客人の前ですよ」
客人とは言っても南の妹。だがその宮子が鶯谷と黒木の迫力に怯えたのか、南の背中に隠れてしまっている。
「あ? 客?」
そこで鶯谷がやっと南の陰に隠れる宮子の存在に気付き、「女!?」と驚いたような声を上げた。
「何でこんな所に女が居るんだよ」
「私の妹です」
最初に興味を示したのは黒木。南の背後をヒョイッと覗き込み「妹……似てる……」と彼独特のボソボソとした小さな声でそう呟いた。
宮子もまだ緊張が解けないままに挨拶をしなきゃいけないと思ったらしい。「南 瓜太郎の妹の宮子です。兄がお世話になっております」と南の背後に隠れながらも黒木に向かってお辞儀をしていた。
「黒木 麻胡です……よろしく」
「あ、はい、よろしくお願いします」
黒木の背が低い事から、宮子は彼を同年代かそれに近い物だと思ったのだろう。少し気を抜いたようにニコリと微笑んでいる。
「あっちのアホは鶯谷……。アレはよろしくしなくていいよ」
アレ、と黒木に指差された鶯谷が「何だと、コラ!?」と声を荒らげるから、南の背後の宮子がビクッと身体を揺らした。
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