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「鶯谷さん、大きな声を出してはいけませんよ。宮子が怯えています」
南の諭すような言葉にも、鶯谷が「だってよ!」と言い訳を始めようとする。でもそれを許さないような南の眼光、笑っているのに目は笑っていないようなその迫力に、鶯谷が「……悪かったよ」と不貞腐れたように謝った。
「いえ、こちらこそ無闇に怯えてしまって失礼しました。兄の同僚の方ですよね? 兄とは親しくしてくれているのでしょうか?」
兄が同僚達にどう思われているのか聞き出したい宮子が、恐る恐る南の背後から顔を出して不安気なクリクリした大きな瞳を鶯谷に向ける。
「お? そりゃあよ、南先生には世話になってんぜ!」
鶯谷は南の事を『先生』と呼んでいた。勉学が苦手な鶯谷はそれを得意とする南が先生のように思えるらしい。たまに解らない事を尋ねると真剣に、そして解りやすく説明をしてくれる南をとても尊敬している事が伺える。
「たまにつまみ食いもさせてくれるしな!」
「それは鶯谷さんがいつもお腹を空かせているからですよ。いつ何時でも『腹減った』と台所に顔を出すものですから、あげない訳にはいかないじゃないですか」
「そういう所が優しいよな!」
ニカッと嫌味なく笑う鶯谷に、宮子がホッとしたように「そうですか」と返す。
「先程、隊長さんにもお話を伺いましたの。隊長さんも兄をとても信頼しているご様子でしたし、同僚の方達にも慕われているようで……とても安心しました。兄はいつもぽややんと……いえ、どこか抜けているような所もあるので、隊の方達と上手くやれているのか心配でしたから」
心底兄を心配する健気な妹、そんな宮子の姿に黒木が「いい子だね……」とポツリと呟く。この呟くような話し方が黒木の癖なのだ。
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