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絵画の中で生きる少女
朝の食事を終えた後、お母様から貰った絵画を手に急いで自分の部屋へ向かった。
少々手荒にドアを閉め、その絵画をじっと見つめる。絵とは思えないほど潤った青い瞳、清楚な白のワンピースを身に纏い、ふわりと優しく微笑んでいるように見える表情。そして何より一際眩い輝きを放つ美しい金色の髪。
そのどれもに「生」を感じたのだ。
「...リズ」
暫し見とれていた中、絵の中の少女に名前をつけた。17歳の男がとる行動としては、我ながら痛いとも思ったが...。
【1日目】
「湊~!お前、何かいいことあっただろ!」
昼休みを告げるチャイムを聞くやいなや、ある男がニヤリと口元を歪め、いたずらに話しかけきた。こいつは井出有希。明るいというか、やかましいというか...少々うざったい性格ではあるが、一応これでも数少ない友人の1人だ。
「なんだよいきなり。」
「だってなんかお前にしては生き生きしてるというか?なんか嬉しそうというか?もしかして彼女でもできたのかー!?羨ましいぞこの野郎ー!」
「まだ何も言ってないだろ...」
まったく、相変わらずのテンションで話が通じない。というか勝手に話を進められてしまう。
「彼女なんてできてないよ。」
「な、俺の予想が外れただと!?」
意外と呆気なく信じるのはこいつのいいところか悪いところか...素直に信じるところはいつまでたっても変わらないんだな。
「へ~、絵画をもらったのか!」
「あぁ。」
「絵画をもらって喜ぶとか、ほんと湊は根っからのお坊ちゃんだなぁ。」
「お前も十分お坊ちゃんだろ?性格はそんなだけど。」
「そんなってなんだよ!まぁいいや、んで?どんな絵なんだよ!」
「ん~...とにかく美しい...?」
「うわ、語彙力は普通の高校生だ。」
「うるさいな。」
美しいことに変わりはないからとりあえずそう伝えた。別に隠すつもりは無いのだが、気恥しいということもあり、その絵画が少女の絵だということは言う気にはなれなかった。それに絵の少女に惚れて、名前までつけたなんて、こいつに知られたら一生笑いものにされるだろう。
この後も色々聞かれたが、有耶無耶に誤魔化して昼休みを終えた。
___
_________
「ただいま。」
「おかえりなさいませ、湊様。」
使用人に制服のジャケットを預け、自分の部屋へまっすぐ向かう。部屋の扉の前に立つと微かな鼓動の高鳴りを感じ、本当に恋をしているんだなと実感する。あぁ、高校生にもなってなんて無謀な恋をしてしまったんだろう。なんて、今更考えてもしょうがないか。
よし...
「ただいま、リズ。」
「おかえりなさい。」
...
...?
「は...、えっ?」
聞こえるはずもない声にぎょっと驚く。今の声は誰だ?何が起こった?リズ?いや、リズは絵だから喋らないはず...昨日の今日でもう頭がおかしくなってしまったのか?
「おーい」
...いや、やっぱり絵から声が聞こえる。そんなことありえないのに。
「リ、リズ...?」
「ふふ、やっとこっちを見てくれた。そうよ、リズ...あなたがつけてくれた素敵な名前。」
「うそ...だろ....」
「あら、とってもおかしな顔をしているわ。どうしたの?」
「だって、絵は喋らな...ええぇ...」
「人は驚くとそんな顔をするのね。ふふ、面白い。でもなんで驚いているの?私に命を吹き込んでくれたのはあなたでしょう?」
なにがなんだかわからない...。ただひとつだけ分かったことは、やっぱりリズは美しい。ぐるぐる巡る思考回路を落ち着かせてくれるような優しい笑顔と声、ごく普通な素振りに思わずこの状況を受け入れてしまっている自分がいる。
「あなたの鼓動が私を動かしたの。簡単なことよ。」
「僕の鼓動が...?」
これ以上にないほど無邪気な笑顔で、金色の髪をふわりと揺らしながらリズは言った。
「あなたが名前をくれたから、あなたの鼓動を聞いたから...熱い眼差しに宿る光は、私の心を灯したの。」
まるで詩のように美しく、歌うように紡がれたその言葉は、僕の心をまた揺れ動かした。
一目惚れをした相手に
たった一日で惚れ直したのだ。
「これからもよろしくお願いしますね。」
この恋心を知ってか知らぬか、リズは優しく目を細めては、満面の笑みでそう言った。
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