第弐章 暗夜の中、庭の光

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結局エリカは、未だに何故梅が亡くなったのかを知らない。前日まで元気だったのだから、病気ではないとして、事故に巻き込まれたのか、はたまた暴漢にでも襲われたのか、検討もつかなかった。 第一、エリカと仲良くなったのを気に入らなくて、手練れの者に殺させたというのも捨てきれなかった。そのくらい、壱倉家は焦臭い、様々な噂が蠢く家だった。 元々、壱倉家は江戸時代大名家だった歴史ある家系である。幕末多くの藩や大名家は多額の借金に苦しんだ。勿論壱倉家も例外ではなかった。 さてここからはあくまでも、密かに陰で囁かれている噂の話である。 積み重なる借金に首が回らなくなり、遂に破産するしかなくなったとき、壱倉家に大金を貸していた商家がある取引を持ちかけたという。 自分の息子を壱倉の養子に迎えてくれれば、借金は取り消しにしてもいい。 こういったやり取りは当時、十分に富を持ち、特権階級に憧れた大商人と貧しい武家の間で秘密裏にやられたとも良く言うが、壱倉家の場合さらに続きがあった。 結局商家から1人養子入りし、壱倉家は破産の道を免れた。 新しく息子となった男の子は12歳で、壱倉の嫡子と同い年だった。だがその子は比べ物にならないほど聡明で、頭の回転がとても早かった。 そして何よりも美男子で、そのことが6年後1つの悲劇を生んだ。
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