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ツーツーとむなしく鳴り響くスマホ。ため息をつきながら通話を終わらせ、かわりに地図アプリをタップした。
場所を確認しながら歩き出すと、ものの5分もかからず店の前についてしまった。
レンガ造りの洒落た小さなお店。入り口付近にはシンプルなプランターに丁寧に植え込まれたグリーンや花が溢れていて、爽やかで気持ちがいい。
ドア横にはめこまれたプレートに店の名前が記されている。
trattoria Tera
ここでまちがいない。
不思議なことに、初めてきたはずの店なのに、どこか懐かしいような雰囲気があった。
なんだか気分が落ち着いて、ふうとひとつ息を吐いたあと、思いきって少し重い木製のドアをあけた。
柔らかい照明に照らされた店内。食事を楽しむ人達のざわめき。背が高い男の子が慌てたように早足で近づいてきた。
「いらっしゃいま……あら~」
「て、寺島くん!?」
白いシャツに黒いカフェエプロンをつけた寺島くんだった。
学校ではみたことがない、よそゆきの笑顔に、一瞬だけ驚きを滲ませたあと。いつもどおりの、からかうような笑みがその表情に広がった。
「あ、眼鏡してない。かわいー」
寺島くんの言葉は、パブロフの犬みたいな条件反射をひきおこす。
自分でもどうしていいかわからないくらい、一気に顔が熱くなるのを感じた。
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