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まっすぐ教卓に向かう。ごそごそ机の上を探してみたけれど日直日誌はみあたらない。
「ないなぁ」
今日の日直さんは確か、田中さんと寺島くん。机のなかにいれっぱなしにしているのかもしれない。背を向けていた方向を振り返ろうとした、その時だった。
いきなりうしろから手が伸びてきて眼鏡を奪われると、大きな手のひら、片手だけで目隠しをされた。
「ひゃあっ!!!」
あまりにびっくりして、空気が抜けるときの風船みたいな、へんな声をだしてしまった。
「だーれだ?」
「だ、だ、だ、だれ?」
「それ、俺が聞いてんの」
くすくす笑うその声を聞いて、少しほっとした。寺島くんだ。
学年でもかなり目立つ存在で女の子たちのアイドル。彼女たちはいつも彼を独占しようと、皆で牽制しあっているから、揉め事になるのでは、といつもハラハラしてみている。
一方で寺島くんの彼女たちに対するあしらいぶりは慣れに慣れていて、余裕綽々。とにかく、この学校に着任してから、みてきた男子のなかで、ダントツナンバーワン女たらしだ。
そんな彼なら、これぐらいのいたずらを仕掛けるなんて、よくあることなのかもしれない。ふう、と息を吐いて自分を落ち着かせてから、口を開く。
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