side:Miku

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「な、なに、言ってるの! 出席をとるから静かにしなさい」 「照れちゃって。デートくらいいいじゃん。それともセンセ、男とデートしたことない、とか? 俺、センセの初めてのオトコになりたい!」 キャーという悲鳴や、クスクス笑いがこぼれ、わたしはため息をつく。 「加藤くん! いい加減に……」 その時だった。がったーん、と凄まじい音が教室の後ろから響いてきて、皆振り返った。 寺島くんが自分の机を蹴り倒していた。いつもの彼らしくない、険しい表情。びっくりして、恥ずかしさも忘れて凝視してしまった。 「……朝から、うっせーんだよ」 ボソリと呟いた小さな声。しーんとした教室では、おかしなほど響いた。寺島くんはひとつため息をつくと、立ち上がった。 「て、寺島くん?」 一瞬目があった。けれど冷たい視線を投げかえされ、それ以上は何もいえなくなる。 彼は無造作にわたしから視線をはずすと、ちょっと便所いくわ、と掠れた声でいい、そのまま教室からでていってしまった。 奏太(かなた)、超機嫌悪くない? 怖えー! なんて声が飛び交い、席が近い女子たちが倒れた机を、甲斐甲斐しく元に戻す。 何が起きたのかよくわからない。けれどぼおっとしている訳にもいかず、静かにして! 出席とります! そう何度も叫んで必死にさざ波だった空気を元に戻そうとした。
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