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女の泣き顔なんて見ても、いつも面倒としか思わないはずなのに。
……一瞬、息が止まった。
心臓に、痛みにも似た強い衝撃。いきなりぶっとい杭でも打ち込まれたみたいだ。どうしても、目をそらせない。
俺と目が合ったみくちゃんが、落とした教科書だかノートだかを慌てて拾い上げる。そしてすぐに、パタパタと逃げるようにいなくなった。
彼女が泣いてからそこまで、ほんの数秒。でも、それはまるで映画のワンシーンみたいに、焼き付いて離れなくて。さっきから何度も何度も繰り返し再生される。
「……島くん……寺島くん?」
そんな俺の思考を現実に引き戻したのは、隣に座る早希ちゃんの声。
あれ、なんで俺、早希ちゃんと一緒にいるんだっけ。てか早希ちゃんとか今どうでもいい。
それよりも、追いかけなきゃ──。
「早希ちゃん、ごめんね。急用」
どうして追いかけなきゃと思ったのかはわからない。でも気づいたら口が勝手にそう言ってて、体はベンチから浮き上がっていた。
「えっ?」
戸惑う早希ちゃんを置き去りにして、俺は渡り廊下へと走り出す。
みくちゃんはどっちに行った? そう考えたらまた、脳裏にあのシーンが鮮やかに再生された。
もうやめてよ。俺、みくちゃんの泣き顔なんてみたくない。
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