第二話 閃光の騎士

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『WYYYYYYY!!』 奇妙な咆哮を上げながら一歩、また一歩と街の中心に迫るロボット怪獣。 その顔はまるでバッタのようで、首元にはエリザベスカラーのような花びらが。両手には二本ずつ、全部で四本の茨の鞭を持っているちぐはぐな姿の怪獣だ。 『怪獣が出現しました。市民の皆様は慌てず、警察等の機関の指示に従い迅速に避難してください』 「押さないで!慌てないでください!」 逃げ惑う人々の頭上遥か高く。青い空に漂う雲の真下に飛来する影があった。 『目標は怪獣一体。付近には小学校がある。近付かれる前に絶対に落とせ』 「ミッション了解」 輸送機の中、鎮座する白と蒼のヒロイックロボ。そのコクピットの中で女は呟く。 『間もなく降下地点です。5、4』 そしてカウントダウンが始まった。 「ファルソード……」 3。 2。 1。 「テイクオフ!」 操縦桿に伝わる衝撃。カウントがゼロになった瞬間固定具が外され、白いヒロイックロボ、ファルソードが投下される。 『WYYYYYYY!?』 瓦礫と土煙を巻き上げながら勢いよく着地するファルソード。 混乱する怪獣に、引き抜いたブロードソードを向けこう告げる。 「貴様の罪、刃の前に懺悔しろ!」 そして今、戦いが始まった。 「おい何してんだ!早く逃げないと……」 警報が鳴り響く中、周りと一緒に逃げようとするカズマ。だが、周りが避難しようとする中でソウタは怪獣の姿を見上げて立ち止まっていた。 「あの場所って、まさか……!」 今怪獣が現れた場所。そしてその向かう先。そこに何があるか気付いた瞬間、ソウタは一心不乱に民衆とは逆方向に駆け出した。 「お前まさか、あの怪獣と……!」 ソウタが何をしようとしているのか。それに気付いたカズマもまた後を追おうとする。 「クソッ……!」 しかし今の自分が行っても何も出来ない事を悟った彼は、その場で足を止めて拳を握り締めた。 やり場のない苛立ちを胸の内にしまい込んで。 『WYYYYY!』 「クソッ、何なんだこいつの硬さは!」 両手の鞭を振るいながら、街を突き進んでいくロボット怪獣。それを食い止めんとファルソードは剣を振るうが、刃は通らず怪獣はまるで無傷だった。 圧倒的な防御力。そう思うも束の間、ファルソードのパイロットはある事に気付く。 「いや、まさかこれは……!」 ふと剣に目を向ける。するとその剣はなんとグズグズに溶けて変形し、とても切れそうにはない姿に成り果てていたのだ。 「ビルが溶けている。やはり……」 辺りのビルも見てみると、やはり同じように鞭を受けた部分が溶かされている。 攻撃が効かなかったのは、敵の装甲が頑強だったからではない。武器を溶かされて、攻撃力を奪われていたからだったのだ。 『WYYYYYYYY!!』 毒茨ロボット怪獣ウィズン。 全高27m、重量770t。 鋼鉄をも溶かす強酸を纏った毒鞭を武器とする恐るべきロボット怪獣である。 「待て、そっちには学校が……!」 ウィズンが向かおうとする先。そこにあったのは、避難所にもなっている小学校だった。 「やだ、こっち来てる……!」 「うわぁぁぁぁん!」 怯える大人たち。泣き叫ぶ子供たち。 今から逃げても間に合わない。彼らにできるのは祈る事だけだった。今すぐに、怪獣から自分たちを助けてくれるヒーローの登場を。 「お兄ちゃん……!」 その中には、ソウタの妹であるマドカの姿もあった。目を閉じて、両手を合わせる。そして脳裏に浮かんだ兄の事を呟いたその時……。 「そこまでだ!」 突如現れ、横から怪獣を殴り飛ばす深緑の機体。そう、ファルガンである。 「行くよ、ファルガンッ!」 そのファルガンのコクピットに座るのは、他でもないソウタだった。彼が戦う気になった時の為に、予め輸送機に搭載されていたのだ。 「あの機体は……?」 『援軍だ。昨日の事件の学生が乗っている』 「わかりました」 予定にない増援に困惑するファルソードのパイロット。だが御法川の言葉で状況を理解したのだった。 「ファルソードの人、加勢します!」 「よろしく頼む」 そして二機が並び立つと、ファルガンはファルソードに予備のブロードソードを手渡して銃を構えた。 「奴の茨の鞭には、無機物も溶かす猛毒が塗られている。直撃を受けたら装甲も意味を成さないだろう」 「触らないように気をつけろって事ですね」 「そういうことだ。行くぞ!」 「はい!」 第二ラウンドの開幕。敵の能力が判り、味方も二人になったところで再度ファルソードはウィズンへと勝負を挑む。 「セアァッ!」 「140mmのライフルカノンだ!食らえッ!」 ファルガンのライフルでの援護を受け、接近し剣を振るうファルソード。 猛毒の鞭を受けないように細心の注意を払っているせいで踏み込めず、ダメージは小さいがそれでも確かに先程より攻撃が通っている事は確かだ。 「お兄……ちゃん……?」 怪獣ウィズンとヒロイックロボ二機の戦いの最中、小学校で眺めていたマドカは気付く。自分たちを助けてくれたファルガンに乗っているのが、自分のたった一人の家族である兄だということに。 「お願い、負けないで……!」 しかし気付いたところで彼女にはやはり祈る事しかできない。勝利の女神が、自分の兄に微笑んでくれることを。 「足止めにしかならないか……!」 照準を合わせ、引き金を引き続けるソウタ。しかしライフルの弾丸ではウィズンに決定打は与えられず、注意を引く事で精一杯だった。 しかし学校を巻き込むかもしれないラスタービームを使うわけにはいかない。八方塞がりかと思われたその時だった。 「いや、それでいい!」 「あれは……!」 ファルソードが取り出したのは、小さな黄金のナイフのようなもの。これを使う隙こそが、逆転の鍵だったのだ。 ac688877-7419-4132-95aa-ec43044aa5d7 「ラスターソード!」 短い刀身が開いて鍔のような形になり、ビームが放たれ長大な剣を形作る。 これこそがファルソードの必殺技の高出力ビームソード、ラスターソードである。 「ビームの刃は溶かせまい!せぇい!!」 『WYYYYY!?』 いくら鋼をも溶かす猛毒とはいえ、実体のないエネルギーの塊であるラスターソードは溶かせない。 振り下ろされたラスターソードは受け止めようとする鞭ごとウィズンの左腕を切り落とす。だが黙ってやられるウィズンではなく、残った右腕でカウンターを仕掛けようと振り上げる。 「させるか!」 だがすかさずファルガンの放ったグレネードがその一撃を阻んで怯ませる。ソウタの作り出したその隙は、ファルソードの必殺の一撃の為の力を蓄えるには充分過ぎる時間だった。 「ラスターソード……」 両肩の放熱フィンを中心に、陽炎で空間が歪む。その後、背中のバーニアに青白い光が灯り、爆発。ファルソードの500t近い巨体が一瞬にして空高く舞い上がった。 青空の下、太陽を背に高々と剣を振り上げて掲げる。そして……。 「エンダァァァ!スラァァァァッシュゥ!!」 『WYYYYYYYYYYYYY!?!?』 一閃。必殺の斬撃が振り下ろされ光の剣はウィズンを脳天から一刀両断した。 「罪深き者へも、手向けの花を」 そしてファルソードが背を向けた瞬間、ウィズンは跡形もなく爆散。炎の中へと消えていった。
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