第二話 閃光の騎士

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結局怪獣騒ぎの後、辺りの学校は全て休校となった。学生たちは皆予想だにしない休みに歓喜し、休日を謳歌している。 一方でソウタとカズマの二人はそんなことはなく、早々にガーディアン関東支部の御法川の元へと訪れていた。 「それでは、今後も戦ってくれるということでいいのかな」 「はい。スーパーヒーローにはなれないかもしれませんが、それでも身近な人たちを守れるなら……」 ファルガンに乗って、ヒーローとして戦う。それがソウタの出した結論だった。やはりきっかけは、マドカを守る為に戦った事だろう。 「みんなの為、世界の為だなんて言う人間より、そういう好きなものや、身近なものを守る為に戦う人間の方が強いものだよ。だから自信を持つといい」 「はぁ……」 「手続きの準備はこちらでしておこう。今日はもう帰って構わないよ」 「はい。失礼します」 話を終えて、御法川の部屋を後にする二人。 こうして、ソウタとカズマは怪獣と戦うヒーローとしてガーディアンに身を置くことになったのだった。 「ソウタ、お前なぁ……。そんな勢いで受けていいのか?」 「一度戦ってしまったからかな。妹が危ないって思ったら、他人には任せておけなくなったんだ。もしも行かなかったらきっとどっちに転んでも後悔してたと思うよ」 「でもなぁ……」 ウィズンと戦った後、それを最後に断る事もできた。だがソウタは、それでも戦うことを選んだ。 戦う力があるなら、戦わずに後悔はしたくない。戦うことができるなら戦って、大切なものを自分の手で守りたい。それが彼の選んだ道だった。 何はともあれ答えは決まった。そして今日のところは帰ろうとしたその時、一人の女性が二人の前に現れた。 「君があのファルガンのパイロットかな」 「あなたは……?」 ソウタがファルガンのパイロットだったということを知っている様子の彼女。 薄い茶色のセミロングの髪が特徴の麗しい女性だが、当然二人には見覚えはなく誰だか分からないでいた。 「藤堂アリサ。先程君と一緒に戦ったファルソードのパイロットだ」 「こんな綺麗な人が……」 彼女の名は藤堂アリサ。ファルソードのパイロットで、軍人上がりではなく民間人からパイロットになった女性である。 「そう見えるかな?」 「ご、ごめんなさい!」 「構わないよ。そう言ってくれて嬉しい」 二人が見た第一印象ではもっと堅苦しい相手のようだった。しかし実際に話してみると意外と気さくで、話しやすいタイプだったようで二人とも肩の力を抜いて自己紹介をする。 「俺は結城ソウタです。よろしくお願いします」 「真宮カズマっす!あのファルガン、エース仕様ですよね!サインいいっすか!?」 「勿論だとも」 「なら是非この本にお願いします!」 「ヒロイックロボのファンブックか。わかった」 そしてカズマは自前のファンブックにサインを書いてもらうと、満足気にそれを鞄の中へとしまった。 何せ通常の白と緑の量産型ファルソードと比べて彼女の乗る青と白のファルソードは、ガーディアンの中でも指折りのエースにしか乗る事が許されないスペシャル機である。実体武器を溶かしてくるウィズンは相性が悪かっただけで、アリサは実際には一人でも負け知らずのガーディアン最強クラスのパイロットなのだ。 「あの……」 「何かな?」 「アリサさんは……どうしてヒロイックロボに?」 そんな今ではエースパイロットと呼ばれる彼女がどうしてヒロイックロボに乗ると決心したのか。自分の今後の為にも、ソウタはこれだけは聞いておきたかった。 「うちの両親が二人とも元自衛官でね。本当は花屋になりたかったんだけど、半分強制的にこの道を進むことになってしまったよ」 だがそのきっかけは大した意思もなく両親の敷いたレールに乗って、両親と同じ戦士の道を否応なく歩むことになったというだけだった。 「それじゃ戦う理由とかは……」 「始めは悩んだよ。なんで私は戦ってるんだろうって」 「なんで戦ってるか……」 ただ言われた通りにパイロットになって、生活の為に戦うだけ。その他の理由も見つからず、ただただ指示通りに作業的に怪獣を倒すだけの日々。彼女にとっての戦いとは、初めはそれだけのものだった。 「でも気付いたんだ。私が戦えばそれだけ、この星の美しい自然の中で生きる草花と、それを愛する人々を守ることができると。花とそれを愛する人の為に働くという点では花屋と同じなんじゃないかって」 しかしそんな中でも戦う理由を見出す事ができた。きっかけこそ語られなかったものの、叶わなかった花屋という夢とは別の形で大好きな草花の為に繋がる事に気付いたのだ。 「愛する草花を……そしてその草花を愛する事が出来る人間という生き物を守る為に戦う。それが私の戦う理由だ。柄でもないだろう?」 また草花を愛せる心を持つ生き物は人間ただひとつ。花屋にはなれなかったが今はガーディアンのヒーローとして、花とそれを愛する人々の為に彼女は戦っているのだ。 つまりは好きな物の為に戦う。それが彼女の持つ戦う理由である。 「素敵だと思います。そういうの」 「そう言ってくれると嬉しい。こんな今でもガーデニングが趣味なんだけど、女騎士のイメージがついて回ってしまってどうしても奇異の目で見られてしまうんだ」 確かに一見すると厳格な女騎士のようにも見えるアリサ。だが奇異の目で見られてしまうというガーデニング趣味からも話してみると気さくな性格からも、本当の彼女は普通の優しい女性である事が伺えた。 「また、水をやりにでも来てくれないか?その時はお茶でも出そう」 「いつか必ず行かせていただきます。ありがとうございました」 「こちらこそ、面白い話ができたよ」 そしてまたいつか再び会う約束を交わし、アリサはこの場から去っていった。 「なんつーか、かっけぇ……。そこらの男の百倍イケメンじゃねぇか……」 何もない中でかつての夢から戦う理由を見出し、綺麗事ではなく自分の好きな物の為に全てを守り戦う強さと優しさを兼ね備えた騎士。 その生き方は、到底他の誰にも真似できるものではないだろう。 「あれが……ヒーロー……」 いきなりハードルの高さを見せつけられたソウタ。敵わない相手の存在を思い知らされるが、同時に戦う明確な理由はこれから探していってもいいのだという事も知らされた。 そういった意味では安心もしていたのかもしれない。 「頑張れよ、ニューヒーロー!俺も付き合うからさ!」 「ありがとう。心強いよ」 何はともあれ彼らはこうしてヒーローの道を歩み出した。きっと世界を救うようなスーパーヒーローにはなれないのだろう。 「まあな。あとはあの女か」 「無理強いはできないよ。それよりこれから頑張っていこう」 「ああ。そうだな」 だがそれでも目に見える範囲の身近な世界を守る事はできる。その為に彼らは、これからも戦っていくのだ。
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