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街を模したバーチャル空間。ここで今ソウタは、自分が初めて戦った怪獣であるカマギラーと戦っていた。
「照準セット!ラスタービーム!」
『KAMAGIRAAAA!!』
ファルガンの放つラスタービームで爆散するカマギラー。同時に、被害総額や撃破タイムなどを示すリザルト画面がモニターに現れた。
『目標を撃破しました。訓練を終了します』
「はぁ……」
訓練を終え、汗を拭いながらシミュレーション用コクピットから降りるソウタ。そんな彼を出迎えたのは、訓練を見ていた八木だった。
「まだ一月半だというのになかなかやるじゃないか」
「ありがとうございます」
実際に訓練を見ていた彼のソウタに対する評価は、ひとまず上々だった。
「技術面ではまだまだ改善点があるが、それを補うだけの判断力が見て取れる」
「やっぱりまだまだですよね……」
「まだ伸び代がある、と考えるんだ。その判断力に技術が伴えば、きっと君はガーディアンでも指折りのエースになれる筈だ」
「ど、どうも……」
八木から見たソウタの評価は、経験が少ない故に技術力は低いが、それを補う程の判断力の高さは一人前以上のレベルというものだった。
もしも操縦技術も身につけることができれば、八木の言うようにいつかエースになる日も遠くないかもしれない。
「それにだ、戦闘データを見たが凄いじゃないか。特に中東の怪獣、コードネーム《メラドガン》はエースでも苦戦するレベルの強さだ。確かに経験は少ないが、その少ない経験の質は新人の域を超えている」
さらに称賛したのは、中東の一件での怪獣メラドガンの撃破。この怪獣は熟練のパイロットである八木でも戦えば苦戦するレベルで、とても並の新人に倒せるものではないのだそうだ。
「つまりだ。自信を持て、少年」
「はいっ!」
「おう。頑張れよ」
八木の言葉に励まされ、ソウタはある程度の自信を得た。そして指摘された操縦技術も努力して伸ばそうと決意するのだった。
本人には自覚はないが、八木は教える者としては褒めて伸ばすタイプでもあるのだろう。
「じゃあな。応援してるぞ」
「あ、あの!」
そして去ろうとする八木を呼び止め、ソウタは彼に一つ尋ねる。
「八木さんにとっての戦う意味……正義ってなんですか?」
それは今ソウタが最も思い悩んでいる課題。正義についてだった。
「意味……か。そうだな、正義とは違うかもしれないが、金の為かな」
「お金……ですか?」
対する八木の答えは、金の為。自他問わずこれまで出てきた中では最も正義からかけ離れたようにも聞こえるだろう。
「好意的な言い方をすれば家族の為だ。妻や子供を養う為に金を稼いで、その過程で敵を倒して街や人を守る。そんなもんさ」
だがそれこそが彼にとっての正義だった。怪獣を倒し、家族の為に金を稼ぐ。その家族にとっては、間違いなく彼はヒーローなのだろう。
「ヒーローは神様でもなんでもない。そんな大層なもんじゃないんだよ。特にヒロイックロボなんてもんがある今の時代はな」
昔は正義のヒーローといえば今より高尚な存在だった。中には神秘的とすら言われた事もあった。
だが今はどうか。人間がヒロイックロボという巨大な機械人形を作り、人間がそれを操縦してヒーローと名乗っている。それのどこに高尚さや神秘性があるというのだろうか。
「ま、何があったかは知らないがせいぜい悩みな。少年」
「あ、ありがとうございます!」
こうしてまたソウタは、新たな正義のひとつのあり方を知った。いつか彼が、自分にとっての本当の正義を見つける時は来るのだろうか……。
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