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一方その頃、ソウタはファルガノンが戦っている轟音を背に、マドカの手を引いてシェルターを目指し走っていた。
「もうすぐでシェルターに着くよ。まだ走れる?」
逃げ惑う人混みの中、息を切らしたマドカに気付いたソウタは道の脇に止まって彼女に声をかける。
「今日は……甘えていい?」
「いいよ。背負ってあげるからほら、乗って」
そしてそう言って彼はマドカを背中に負ぶって、再びシェルターへと向かい始めた。
「ありがと……」
「回転寿司はまた明日にしようか。倒壊しなかったらだけど」
この状況ではもう約束通り二人で回転寿司を食べに行くことはできない。もしこの戦いで倒壊してしまえば、明日というのも叶わなくなる。マドカを喜ばせる為にも、ソウタは目的の店が倒壊しない事を祈っていた。
「あのね、お兄ちゃん……」
「どうしたんだ?」
「この頃怪獣が多くて……ひとりぼっちで、ずっと怖かったの」
一方マドカは、怪獣が出ているにも拘わらず兄は戦わずに自分の傍にいてくれているこの滅多にない状況で、自分の気持ちを暴露する。
「けど、お兄ちゃんが戦ってくれるから大丈夫って、そう思ってきたんだよ……」
毒茨怪獣ウィズンの襲撃で、助けてくれたファルガンに乗っていたのが自分の兄だと知った時はとても嬉しかった。この思いに間違いはない。
「それでも……お兄ちゃんがあそこで戦ってるより、こうしてお兄ちゃんがそばに居てくれる方が、ずっと安心できるなぁって……」
だが戦ってくれているのが自分の兄だと知っても尚、それよりもこうして傍にいてくれる方がずっと彼女の心は満たされていたのだ。
「ごめん。そばにいられなくて」
「ううん、いいの。お兄ちゃんはやりたいことを見つけたんでしょ?それなら応援するよ」
しかしそれは兄を縛り付けたくはないという思いか、それとも正義のヒーローを独占してしまうことへの後ろめたさか。いずれにせよ、彼女に兄を止めるつもりはなかった。むしろ、戦うのならその背中を押すつもりでいた。
「でも……その分、二人の時は甘えさせて欲しいなぁ……」
「わかった」
そして彼女は、二人でいる時間は今まで以上に兄に甘えようと誓う。
「それじゃまずは、シェルターに急ごう」
「うん……!」
一緒に食事をしに行くという計画は台無しになったものの、マドカが思いを打ち明けることで兄妹二人の絆を深める事はできた。
だがまだ安心はできない。彼らの運命は、今も怪獣と戦う赤き鬼へと託されることになる。
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