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それから街に着いた二人は、クオンの空腹を癒やす為にとまずはハンバーガーチェーンに立ち寄った。箸もまともに使えないであろうクオンでも食べやすいようにと気を遣っての選択だ。
「ありがとう、買ってくれて……」
「お金はそこそこあるからいいよ、これくらい」
ベンチに座ってクオンが頬張るのは、ボリューム満点なビッグサイズのハンバーガー。お淑やかな印象のある彼女だが、意外と食欲は旺盛なようだ。
ソウタはそんな様子を、安いハンバーガーを齧りながら微笑ましく見守っていた。
「平和……だね……」
そしてクオンは、戦地では食べられなかった美味しい物を食べて、笑顔で街を行き交う人々の姿を見てそう呟く。
大人も子供も関係ない、人間同士が殺し合う日常を何年も過ごしてきた彼女にとって、この光景はあまりにも新鮮に映っていた。
「怪獣は出るけどね」
「それでも、私のいた場所に比べたら……」
勿論この街も、怪獣が現れるなど平和とは言い切れない。だが、それでもクオンが見てきた世界に比べたらずっと穏やかで安心できる場所に違いないだろう。
「こうしてるとなんだか、デートみたいだね」
「でー……と……?」
男女二人で街に出掛けて、一緒に軽い食事をして何気ない話を交わす。まるでちょっとしたデートのようだとソウタは言うが、クオンはその意味を理解していないようだ。
「ご、ごめん。分からなかった?」
「分からないけど……どういうこと……?」
「こうしてたら恋人同士みたいだねって思ってさ」
「不思議だね。まだ出会って二回目なのに」
そしてその意味を知ったクオンは、笑いながらそう口にする。
「ははっ、そうだね」
確かにソウタとクオンは偶然二回会ったというだけで、特別な関係でも何でもない。その二人がこうして今デート紛いの事をしているというのは不思議なものである。
「ねぇ、ソウタ君……」
「何?」
ハンバーガーを食べ終えたクオンは包み紙を丸めて袋に捨てると、新たに話題を切り出す。
「あなたはなんの為に……戦っているの……?」
「っ……!」
そして、空気が変わった。
「ヒロイックロボに乗って危ない戦いをしに行く理由を、教えて……」
何故かクオンは、ソウタがヒーローとして戦っている事を知っていたのだ。彼女が何を考えているのかは解らないが、その質問にソウタは自分の思いそのままで答える。
「妹や友達、他にも目に見える範囲の……守れる世界の人たちをこの手で守りたいから、かな」
「やっぱり、あなたなら……」
その答えを聞いたクオンは、笑みを浮かべて告げる。
「自由、平等、世界平和……。そんなからっぽの言葉よりずっと強くて、本気の思いなんだね……」
「君は、一体……」
まるで自由や平等、平和というような言葉を信じていないかのような言葉に、ソウタはそう尋ねる。
「だから、幸せに選ばれなかった。それだけ……」
一体これまでクオンがどれほど凄惨な世界を見てきたのか。平和な世界で生きてきたソウタには、その言葉からそれを推し量る事はとても出来なかった。
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