第七話 究極の力

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翌日、約束通り学校を休んでガーディアン支部を訪れたソウタは、出迎えに来た御法川と共に目的の場所へと向かって廊下を歩いていた。 「すまないね。わざわざ来てもらって」 「いえ。俺にもきっと、必要な事ですから」 「水無瀬クオンの為、かな?」 「……はい」 ファルガンを失ったソウタは、今すぐにでも新しい力を必要としていた。自分の為ではなく、救いたい少女の為に。 その為ならば学校を一日休む程度どうということはない。それよりも彼は、早く新しい機体がどのような物なのかを確かめたかった。 「来てくれ。こっちだ」 御法川にそう言われて乗り込んだのは、普段から何気なく使っているエレベーター。 ソウタが不思議に思っていると、御法川は行き先のボタンを不規則に押し始める。すると、エレベーターは地下に向かって動き始めた。 「どこに向かっているんですか?」 「地下13階だよ」 地下13階。そうは言うものの、案内表示にそのような階はない。だがエレベーターは、表示を超えてさらに地下へと向かっている。 実は先程御法川が不規則に行き先ボタンを押していたのは、隠された地下へと向かうパスワードを打ち込んでいたのだ。 「こんなところが……」 「ここにあるのは、極秘プロジェクトで開発されたものだ。絶対にまだ口外しないと約束できるかな」 そして辿り着いた地下13階にあったのは、厳重にロックされた大きな扉。その先に隠されているのは、未だ世間には知られていない存在である。 「……はい」 「では、開けるぞ」 扉が開き、光が漏れ出す。 一瞬ソウタは目を覆い、その後瞳を開けるとそこにはまだ見たことのない一機のヒロイックロボが佇んでいた。 「こ、これは……?」 「HR-EX01ファルブレイヴ。勇者の名を冠する、究極のヒロイックロボだ」 それこそがガーディアンが密かに開発していた究極のヒロイックロボ、ファルブレイヴである。 「ファル……ブレイヴ……」 ミリタリー調のファルガンとは似ても似つかない、ヒロイックな白い機体。頭には黄金のブレードアンテナが二本伸び、その背中には四枚の羽根を背負っている。 その姿は、まさに勇者と呼ぶに相応しい英雄的なものだった。 「御法川さん。お二人をお連れしました」 「うわっ、なんだこれ!」 「つっよそー」 ファルブレイヴの姿にソウタが圧倒されていると、遅れて研究員に案内されたカズマとフウカもやってきた。 「どうして二人も……」 「連携するんだから、知っておく必要はあるだろう?」 彼らがここに呼ばれた理由は、Gキャリアーで共同戦線を張る故に事前に知らせておく為。そう、つまり……。 「それってまさか……」 「この機体のパイロットは結城くん。君だ」 この極秘開発された最強のヒロイックロボ、ファルブレイヴはこれからソウタの機体となるのだ。 「どうして俺なんかが……?もっと強い人は沢山いるのに……」 「この機体は、これからの戦いの主人公となる人間をパイロットとする事を想定して開発されているんだ。そしてガーディアンにおいて適性が一番高いのは君だ」 この機体のコンセプトは、物語の主人公となるに相応しい機体。つまり過去に魔王を討ったヒーローに代わる、新世代のスーパーヒーローとしてこの機体は開発された。 そして御法川がパイロットに求めていたのは技術ではなく、主人公としての素質。 これまでのソウタたちの活躍をその目で確かめた御法川は確信していたのだ。このファルブレイヴのパイロットに相応しいのはソウタなのだと。 「それに……お姫様を助けるのは勇者と相場が決まっているだろう?やはりこの機体は、君にこそ相応しかった」 その上、今の彼の目的は一人の少女を救う事。まさに勇者の名を冠するに相応しい目的とも言える。 「俺が……この機体を……」 だがソウタにはまだ実感がない。成り行きでファルガンに乗り戦い始めたとはいえ、このような短期間で機密レベルの最新型に乗るなどと想像もしていなかったからだ。 「乗ってみるかい?」 そんな彼に、御法川はとりあえずの試乗を提案する。 「いいんですか?」 「シミュレーターだけどね。二人はいつも通りアシストをしてやってくれ」 「はーい」 「わかりました!」 条件はいつも通りカズマとフウカのバックアップ付き。二人はその為にコンピュータの前に陣取ると、慣れた手つきでオペレーションシステムを起動させた。 『シミュレーションモードを起動します』 「な、なんだこれ……」 一方でソウタはコクピットに乗り込んで起動させた矢先、思わず驚愕してしまう。 「デュアルバッテリー、斥力式飛行装置(リパルションリフター)……!?内蔵式ラスタービームにラスターセイバーも標準装備……」 直列配置された二基の動力源スーパーイオンバッテリーに、斥力を発生させて空を飛ぶ飛行装置。さらには外付けで装備するまでもなく複数のラスター装備を内蔵までしているのだ。 出力がファルガンの二倍を超えているなど、カタログスペックを見るだけでも異次元のレベルである。 「御法川さん、なんなんですかこれは!」 「試してみるといい」 まるでゲームでチートを使ったかのようなスペック表示に、馬鹿にされていると思い憤るソウタ。 そんな彼に仕向ける為、御法川はUSBをコンピュータに差し込み仮想敵の怪獣を送り込んだ。 『標的、カマギラータイプ。機数12』 敵はソウタたちが初めて戦ったロボット怪獣カマギラー。だがその数はなんと12(1ダース)だった。 「12体!?無茶苦茶ですよこんなの!」 「いいから戦ってみるんだ。死にはしない」 「もうどうにでもなれ!ファルブレイヴ、テイクオフ!」 一体でさえ手を焼くロボット怪獣が12体。絶望的な状況だが、所詮シミュレーターでしかない。ソウタは半ば自棄になりながらファルブレイヴを怪獣軍団の中へと突撃させた。 「ラスタァァァビィィィィムッ!!」 一体一体相手にしてはキリがない。開幕早々ファルブレイヴは高出力のラスタービームを掌から放ち、薙ぎ払う。 『KAMAGIRAAAAA!?!?』 「三体は倒せたけど……こんなの……」 爆散する三体の怪獣。残りは九体。 だがラスタービームを使ったからには残り九体分のエネルギーなど残っていない。そう思っていたのだが……。 「エネルギーが……全然減ってない……!?」 ラスタービームを撃ったにも拘わらず、残りエネルギーはなんと九割を上回っている。 ファルガンならば既に残り三割を下回っているところだが、ファルブレイヴはこの程度の消費など物ともしていなかった。 「ソウタ!後ろからくるぞ!」 「くっ……!」 カズマの警告に反応し、咄嗟に操縦桿を引くソウタ。 その瞬間、ファルブレイヴの背中の羽が輝き出し機体が空高く舞い上がった。 『KAMAGIRAAAAA!!』 直後、地上のカマギラー軍団から一斉に怪光線が放たれるが、その光は全てバリアに阻まれて霧散した。 これがファルブレイヴの特殊装備、リパルションリフター。機体の周囲にリパルションフィールドを展開し、敵の攻撃を斥力により防ぐと同時に機体と地面の間にも斥力を発生させて飛行すら可能とする非常に強力な装備である。 「ラスターセイバー!」 『KAMAGIRAAAA!?!?』 そして光の剣を展開し急降下。カマギラーの一体を脳天から両断し爆散させた。 ラスターセイバー。ファルソードのラスターソードをベースにして、ファルブラックのラスターブラッドセイバーを目標に開発された上位装備だ。 「おいおい、なんだこりゃ……」 「どんどん怪獣消えてってない?」 そこから先は、あまりにも一方的だった。空を舞い、光線を弾き、光の剣で怪獣たちを切り裂いていく。 「エンダースラッシュ!」 やがて最後の怪獣もラスターセイバーに両断され、爆散。 『目標を撃破しました。訓練を終了します』 同時に、訓練の終了を告げるアナウンスが鳴りシミュレーションが終了した。 「12体の怪獣を、一分もしねぇで……」 「うっそでしょ……」 表示されたクリアタイムは、57秒。カマギラー一体あたりで考えると五秒以下という結果である。 「ファルブレイヴ……。この力があれば、クオンを……!」 ヒロイックロボという枠を超越した、究極の戦闘ロボットと呼ぶに相応しい圧倒的な戦闘力。これがあれば、同じく強大な力を持つファルブラックとも渡り合いクオンを救う事も出来るという確信をソウタは得ていた。 「御法川だ。何があった」 だがその時、御法川は電話を耳に当て不穏な表情を浮かべていた。 「何だと!?」 「どうしたんですか?」 「君たちも一緒に来てくれ」 そしてファルブレイヴのお披露目を切り上げ、慌ててソウタたちを連れて上の階に上がろうとする。その理由とは……。 「敵の……犯行声明だ」
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