第七話 究極の力

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「お待ちしておりました」 それから数分後。彼らが指令室に到着した時には既に他の職員たちも集結し、臨戦態勢に入っていた。 「繋いでくれ」 そして御法川が席につくと同時に、指定されたチャンネルで通信回線を開く。 『よくぞ現れた、日本国ガーディアン総司令官、御法川ケンジ』 直後、画面に現れたのは男だった。顔は影になっていてハッキリとは見えないが、クオンにも似た銀髪に筋骨隆々な身とした体と、容姿端麗な人物である事が窺える。 「何者だ!」 『我々は黒曜旅団。魔王を復活させ、世界に恐怖と絶望による平穏を齎す者だ』 男は宣言する。黒曜旅団と呼ぶ組織の蜂起を。そして、魔王復活の始まりを。 「魔王復活だと?」 「おいおい嘘だろ……」 「魔王ってあの魔王?」 魔王復活という言葉に、辺りには動揺が広がる。 魔王とは、過去にこの世の物理法則とは異なる体系の魔法科学という超科学を手に突如世界に宣戦布告をした侵略者。魔法科学により産まれた怪獣は、通常兵器を物ともせず世界を蹂躙した。 怪獣や魔王はヒーローに倒されたものの、その影響は今でも残っている。その魔王が復活したとなれば、ヒロイックロボでは対抗出来ない可能性が極めて高いのだ。 『何十年もの昔、魔王が死んでから世界は変わったか?否!人類は堕落し、過ちをも繰り返し、来る日来る日を怠惰に過ごしているに過ぎない!』 そして魔王が倒れてから数十年。人々は怪獣の再来を恐れヒロイックロボを建造したものの崩壊しかけた文明を建て直す事はなく、2010年代後半レベルまで後退した文明の中で今を生きている。 10年代後半の街並みの中に、ヒロイックロボという巨大ロボットが存在しているという歪な光景が、それを証明している。 『故に我々は、魔王を復活させる!絶望による支配で堕落した人類を矯正し、価値のある明日を迎える為に!』 ヒーローの代替品(ヒロイックロボ)に守られながら、古い文明や戦争といった過ぎ去った過去を繰り返すだけの人類を男は堕落したと断ずる。 そして黒曜旅団の目的は、そのような世界を変える事だという。 「ふざけたことを!」 当然御法川はそんな事は認めない。今を生きる人々の暮らしを守る事が、ガーディアンの使命なのだから。 『手始めに我々はガーディアン関東支部を消滅させ、意志の証明とする。その様子は、全世界にリアルタイムで中継される』 そして、終末の時は訪れた。 『行け、究極怪獣ゼットラゴンよ!人類よ、恐怖せよ!今こそ、絶望の宴の幕開けだッ!!』 「上空に高エネルギー反応!これは……超空間ゲート!?」 「バカな!その技術は今の人類にはない筈だ!」 鳴り響く警報。同時に、支部付近の上空にモニターが異様な物を映し出す。それは、ワームホールのような巨大な穴だった。 超空間ゲート。これもまた、過去に魔王が齎した魔法科学の産物の一つだ。 「敵怪獣、現れます!」 そして現れた巨体。その風貌は凶悪でありながら洗練されたデザインを持つ、まさに機械仕掛けの邪竜と呼べるものだった。 『ZEGYAAAAAAA!!』 究極ロボット怪獣ゼットラゴン。 全高30m、重量999t。 黒曜旅団の超科学の粋を集めて建造された史上最強、究極のロボット怪獣である。 「自動防衛システム起動!八木のファルガノン及び、藤堂のファルソードを発進させろ!」 「了解!両機、発進スタンバイ!」 敵は危険だ。そう判断した御法川はすぐさま自動防衛システムの起動、そしてファルガノンとファルソードの発進を命じる。 「目標、第一防衛線を突破!」 無尽蔵に防衛システムから放たれるミサイルに機関銃の雨あられ。だがゼットラゴンはそのような攻撃などものともせず防衛ラインを突破していく。 「超空間ゲートから出てきたんだ。ただの怪獣ではない筈だが……」 だがここまでは通常の怪獣でも考えられる範囲内。超空間ゲートから現れる怪獣が普通な筈がないと、御法川が警戒した矢先だった。 「これは……目標に超高エネルギー反応を確認!」 ゼットラゴンの頭部装甲が展開し、頭そのものがビーム砲に変形。凄まじい光を放ちながらチャージを始める。 「まずい!全員、伏せろッ!」 『AAAAAAAAAAAーッ!!!!』 そして、光が放たれた。 「光線、地下区画に到達!シェルター第一層、第二層突破!」 地下シェルターの下にある指令室にまで衝撃が伝わる程の威力。その一撃、たった一撃で頑丈な多層シェルターのうち二層が突破された。 「まずい、これ以上撃たれては……!」 この場所のシェルターの層は全部で四層。もしも次光線を撃たれてしまえば、その全てが破壊されゼットラゴンの侵入を許してしまう。それだけは何としても避けなければならない。 「ここから先には行かせない!」 「ファルソード、援護するぞ!」 最悪の状況下で、敵の侵攻を阻止する為にアリサのファルソードと八木のファルガノンが立ち向かう。 この二機こそが、今の関東支部が用意できる最高の戦力である。 「俺も行かなきゃ……!」 「行くな結城くん!ブレイヴの機体は調整中だ!」 彼らに続いてソウタも出撃しようとするが、新たな専用機であるファルブレイヴは最終調整が終わっておらず未完成の状態であり、とても出撃できるものではない。 「我が剣の錆となれッ!」 「こいつはおまけだ!ライフルカノン発射ッ!」 ブロードソードを抜き、ファルソードが突撃する。そしてファルガノンが二丁のライフルカノンで援護し、二機がかりでゼットラゴンへと攻撃を仕掛けた。 「こいつ、無傷か!?」 しかし、ライフルの砲弾は甲高い金属音を立てながら装甲に弾かれ、そこには傷一つついていない。 「ファルソードの剣を物ともしないとは……うぐっ!?」 そしてファルソードの剣すらも弾き、尻尾のカウンター攻撃でゼットラゴンはファルソードを地面へと叩きつけた。 「藤堂ッ!」 『ZEGYAAAAAA!』 さらに追撃。ゼットラゴンは太い腕で掴みかかり、ファルソードの左腕を引きちぎった後機体を投げ飛ばした。 「左腕が……!?」 「脱出しろ、藤堂ッ!!」 左腕全損、その他も中破。ファルソードはもはや限界であり、庇うようにファルガノンが前に立つ。 だがその瞬間、再びゼットラゴンの頭部のビーム砲が展開し二機を捉える。 『AAAAAAAAー!!!!』 「ぐあぁぁぁぁっ!!」 「ぐ……ぅ……!」 そして放たれた光線が、ファルソードとファルガノンの二機を纏めて貫く。 瞬間、強制的に脱出装置が作動しコクピットが遠くへと射出され、同時に二機は爆散。そのままゼットラゴンは振り下ろすように光線をシェルターへと照射し始めた。 「ファルガノン及びファルソード、撃墜!脱出装置の作動を確認しました!」 「あの二人をこんな簡単に……!?」 まもなくして、シェルターが全て破壊され最後の防衛線が突破されてしまう。 パイロットの二人は恐らく無事とはいえ、ファルソードとファルガノンが為す術もなく倒される程の圧倒的な強さ。もはや現状の戦力で、ガーディアンがゼットラゴンに対抗する術はない。 「敵怪獣、基地内部へ降下中!」 「全職員を退避させろ!機体はファルブレイヴを最優先に搬出!指令室も各員の退避を確認次第放棄する!」 もはや勝敗は決した。御法川は遺憾ながらも支部の放棄を決め、脱出の指示を出す。 「うちらも逃げよう!」 「ソウタ!お前も……」 そしてカズマたちもまた逃げようとするが……。 「おい、お前……どこ行ったんだよ……」 今さっきまではいたはずのソウタの姿が、ここにはなかった。 「これは……敵怪獣、来ます!」 『ZEGYAAAAAA!!』 次の瞬間、隔壁を突き破って指令室にゼットラゴンが現れた。 「嫌……こんなところで……」 「マジかよ……」 世界に対する見せしめのつもりなのだろう。司令室へ向け、ビーム砲を展開するゼットラゴン。 ある者は怯え竦み、ある者はこの場から逃げ出そうとする。 「ソウタぁぁぁぁぁぁ!!」 そんな中、フウカは叫ぶ。今まで共に戦った、ヒーローの名を。 「させるかぁぁぁぁっ!!」 次の瞬間、ゼットラゴンの頭上から何かが激突しその巨体を叩き伏せた。 「ファルガン!?」 「ソウタ……!」 そしてカズマとフウカの視界に映ったもの。 それは、一部のフレームが剥き出しの状態でありながら最後の力として最強の敵に立ち向かおうとするファルガンの姿だった。 「そこから……離れろぉぉぉぉ!!」 ゼットラゴンと取っ組み合い、共に更に深い地下へと落ちて行くファルガン。 そして空中でゼットラゴンの手を振りほどくと、すかさずバズーカを構え巨体へと向ける。 「ラスタァァァ!ビィィィィィム!!」 瞬間、凄まじい威力の光線が放たれゼットラゴンを直撃し地の底へと叩き落とした。 「ダメだ、エネルギーが切れるぞ!」 一見するとファルガンが押しているように見えるこの状況。だがここでファルガンはラスタービームを使ってしまった。残り少ないエネルギーでゼットラゴンと戦うのは絶望的だろう。 そう思われたが……。 「あれは……予備のバッテリーを全てラスタービームに括り付けているのか……!?」 いつもよりどこか歪な形状をしているラスタービームバズーカ。それをよく見ると、なんと予備のヒロイックロボ用のスーパーイオンバッテリーが幾つも括り付けた上に、ケーブル剥き出しで強引に接続されていたのだ。 「やめるんだ結城くん!そんな使い方をしたら爆発するぞ!」 それはまさに捨て身の特攻。バチバチと音を立てて爆発寸前のラスタービームを携え、ファルガンは今最後の戦いに臨む。 『ZEGYAAAAAAA!!』 先に底に降り立ったのは、ゼットラゴンだった。 ゼットラゴンは降り立つと同時に暴れ始め、地下13階の施設を完膚なきまでに破壊し始めた。 「地下13階、全壊!ファルブレイヴ、破壊されました!」 やはり人が乗っていなければ脆いものである。地下13階設備と同時に、希望であるファルブレイヴもまた破壊されてしまった。 「ファルブレイヴが……人類の希望が……」 究極のヒロイックロボ、ファルブレイヴの喪失という事態に打ちひしがれる御法川。 「おっさん!ロボ一つ壊されたくらいで何ヘコタレてんだよッ!!」 「カズマぁ!」 そんな彼を、フウカの制止を振り切りカズマは首元を掴んで怒鳴りつける。 「あいつは……ソウタは!今たった一人で、しかも旧式のファルガンで!俺たちの最後の希望として戦ってくれてんだよ!!」 先輩二人が倒され、ファルブレイヴも破壊された。絶望的としか言い様がない状況で尚ソウタは、限界を迎えたファルガンで戦っている。しかも、地下という脱出装置が使えない閉所で。 「テメェはその意志を無駄にする気か!組織改革とやらに利用するだけ利用しておいて、あいつの事はその程度にしか見てなかったのかよッ!!」 しかし御法川がここで投げ出してしまえばその覚悟も無駄となってしまう。カズマにはそれが決して許せなかった。 「やはり君たちを選んで正解だったよ」 御法川は思い出した。かつてソウタとカズマ、フウカの三人に見た真のヒーローの姿の片鱗を。 そして奮い立たされた彼は、再び総司令官としての命令を告げる。 「総員、全設備及び装備を放棄し、自身の安全を最優先とし退避を急げ!全人員の安全を確保次第、我々はこの支部から脱出する!」 「無事でいろよ、ソウタ……!」 ガーディアン関東支部は、こうして最期を迎えた。 脱出準備が進む中、カズマは胸の内で祈る。今も一人戦い続けるソウタの無事を……。
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