第八話 そしてここから

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一方その頃、結城家では……。 「マドカ、手伝える事はないかな」 「傷は大丈夫なの?お兄ちゃん」 「もう大丈夫だよ」  そこには、外の喧騒とはまるで別世界の、長閑(のどか)な光景が広がっていた。  学校も休校になり、一日中ソウタとマドカがこの家で二人で過ごす。そんな毎日が、一ヶ月近く続いているのだ。 「それじゃ、ゆで卵の殻剥いてくれる?」 「わかった」  この日の夕飯は、卵と豚肉の甘辛煮込み。その為のゆで卵の殼剥きをマドカから頼まれ、ソウタはテレビを見ながら卵の殻を剥き始める。 『本日午前10時頃、博多駅付近に怪獣が出現しました。被害は……』 「くっ……!」  だがいくら平和に過ごしているとはいえ、やはり怪獣の数は以前よりも増えている。  その度に戦いたいと、この手で誰かを守りたいとソウタは拳を握り締めていた。 「いいんだよ。もうお兄ちゃんは充分戦ったから、ね?」 「ごめん、マドカ……」  だが、もう彼が戦うことはできない。瀕死の重傷を負い、マドカには耐え難い程の不安と悲しみを与えてしまった。  医者の話ではソウタの意識がない間、見舞いに来る度に泣きじゃくっていたという。  そこまで辛い思いをさせてしまった以上、もう彼が戦うことはできないだろう。 「この音……ポストかな? 珍しいね」  不快なニュースが流れるテレビを消して、黙々と卵の殻を剥いていると玄関の方から、カランというポストに投函される音が鳴った。 「俺が見てくるよ」  このご時世でチラシなどは配られていない。個人宛ならば誰なのか。それを確かめる為、ソウタは玄関へと赴く。 「手紙?誰から……」  そしてポストを開けると、そこには一枚の手紙が届いていた。送り主の名前を確かめると、そこに記されていたのは……。 「御法川さん!?」  御法川ケンジ。崩壊したガーディアン関東支部の総司令官の名だった。 「誰?」 「えっと、学校の先生だよ。先生」 「そっか。中入ろう!」  もしもガーディアンから連絡が来たとなれば、またマドカに心配をかけてしまう。  それを避ける為、ソウタは学校の先生だと誤魔化し様子を見に来たマドカと一緒に家の中へと入っていった。 (もしも自分の意志で、再び戦いたいと願うなら連絡してくれ……か……)  手紙を開けてみると、記されていたのはそのような内容の文。 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「ああ、今行く」  だが今となっては関係のない話である。 (俺はもう戦えない。マドカの傍にいなきゃいけないんだ……)  もうこれ以上戦って、マドカに辛い思いをさせる訳にはいかないのだから。
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