第八話 そしてここから

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(結局俺は、ヒーローにはなれなかった……)  そしてソウタは、ベッドで横たわるマドカの手を握りながら手紙の事を思い出していた。 「お兄……ちゃん……」 (でも……きっとこれで良かったんだ……)  怪我での入院から退院して以降、彼はこうして毎日寝付くまでマドカの手を握っている。こうしているのも、マドカに不安な思いをさせない為だ。 「おやすみ、マドカ」  その後手を離し、ソウタも自分の寝室に向かおうとしたその時だった。 『GAAAAAAAA!!』 「この声はまさか……!」  突如、大気に凄まじい咆哮が響き渡る。 「空を飛ぶ、怪獣……!?」  咄嗟に窓を開け、外を見渡すとそこには空を自在に飛び回るロボット怪獣の姿があった。 「逃げるんだよ早く!」 「逃げるったってどこに!」  口から火球を吐き、地上を爆撃する怪獣フレアノドン。  人々が恐怖し、逃げ惑う中、それは現れる。 『GAAA!?』 「あの人を……あの人の住む街を……壊させはしない」  黒と黄色の、夜空のような色。そして桃色に輝く光の翼を背負ったヒロイックロボ、ファルブラックだ。 「ファルブラックだ!」 「この際誰でもいい! 怪獣を倒してくれ!」  世間ではインターネットで都市伝説のように扱われていた、正体不明の存在であるファルブラック。善か悪かすらも分からないその存在に人々は期待を託す。 (みんな知らないんだ。あの機体を動かしているのが、あんな女の子だってことを……)  そうして縋る人々は想像もしないだろう。自分たちが縋るファルブラックに乗っているのは、テロで全てを失った、齢15もいかない少女だということを。 「ラスターブラッドガン」  ファルブラックが取り出したのは、銃剣付きのビーム拳銃、ラスターブラッドガン。 「逃がしはしない」  引き金を引き、光線を放ちながらクオンはフレアノドンを追い立てていく。  光線を躱しながら飛び回るフレアノドンは、突然高度を上げ始める。 「高度を上げていく? ……まさか」  ファルブラックの直上を陣取り、嘴を開くフレアノドン。そしてファルブラックを照準に捉えると、口から次々と火球を放った。 「くぅっ!」  だがファルブラックは、攻撃を受けたまままるで避けようとしない。  何故攻撃を避けないのか。地上から見ていたソウタは気付いた。 「まさかクオン、街を庇って……!」  もしも避けてしまえば、火球は街へと降り注ぐ。だからクオンは街を庇う為に、避けずに攻撃を耐え続けているのだ。 怪獣が高度を上げたのも、これを狙っての事なのだろう。 「彼の……ソウタの暮らす街は……壊させはしない……!」 「ダメだ、あのままじゃクオンが!」  このままではファルブラックもやられてしまう。そうなればこの街も、クオンも無事では済まないだろう。 「自分の意志で、再び戦いたいと願うなら……!」  この状況でやるべき事。それをソウタは理解していた。  マドカをまた傷つける事になるかもしれない。だがそれでも、やらなければならない事が彼にはあるのだ。 「御法川さん!」 『分かっている! 既に準備はしてある! 君は今すぐ駅前広場に向かってくれ!』 「わかりました!」  家の階段を駆け下りながら、御法川に電話をかけるソウタ。 向こうはどうやら既に準備が出来ているらしく、合流ポイントは駅前広場との事だ。 「お兄ちゃん……?」  電話を切ると、ソウタの後ろには騒動で目を覚ましたマドカが様子を見に来ていた。 「ごめん、マドカ。お兄ちゃん、やっぱり行かないといけないんだ」 「なんで!? お兄ちゃんがヒーローになんてなる必要ないのに!」  そしてソウタがこれから戦いに行こうとしている事を知るや否や、目に涙を浮かべながら止めようとする。 彼女は恐れていたのだ。もう一度戦わせてしまえば、今度こそ帰ってこないかもしれないと。だから彼女は、必死にソウタを止めようとする。 「そうだね。俺がヒーローになる必要なんてない」  だが彼は、決してヒーローなどになりたい訳ではない。 「だけど俺には、好きな人がいるんだ。そしてその人は、今もあの空でみんなを命懸けで守ってる。その子を助けに行きたいんだ。だからごめん」  ただ一人の少女を守りたい。その思いが、ソウタを戦いへと突き動かしているのだ。 「……わかった。でも条件!」  それならば、もはや止められまいとマドカは諦める。しかしその為には、一つの条件があった。 「次からは、私も連れて行って。私もお兄ちゃんの力になりたい!」  これ以上、心配して待つだけというのは耐えられない。だから彼女は願った。自分も戦いに強力し、少しでも兄の力になる事を。 「危ないよ」 「わかってる!」 「……なら、頼んでいいかな」 「頑張るよ」  彼女の制止を振り切って戦う以上、断る事もできない。これからはマドカの力も借りる事を約束し、ソウタは玄関の扉を開ける。 「それじゃあ……行ってくる!」 「頑張ってね、お兄ちゃん」  そして自転車に飛び乗ると、駅前へと続く道を全速力で駆け抜けていった。 (みんなのヒーローになんてなれなくたっていい!)  数十年前のような、無敵のヒーローになど、なるつもりはない。 (だけどあの子が泣いて終わる最後なんて……そんなもの絶対に認めないッ!!)  ただ、少しでもクオンの涙を拭えるのならと。その為に、ソウタは戦いへと向かう。 「駅前広場……ここか……」  そして駅前広場に着くと、そこには強く風が吹き荒れている。ふと空を見上げると、そこには巨大な輸送機が滞空していた。 「聞こえるか結城くん! 今からヒロイックロボを投下する! それが、君の機体だ!」 「っ……!」  咄嗟にソウタが物陰に隠れると、広場から大地を叩きつける轟音が響き、アスファルトが撒き散らされる。  その後衝撃が収まり、ソウタが広場に出るとそこには一機のヒロイックロボが鎮座していた。
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